第一章 「灰の中の邂逅」

空は、まるで焦げた金属板のように鈍く光り、どこまでも続く灰色の雲が太陽を覆い隠していた。

 瓦礫の隙間を、少年は歩いていた。重たくなった足を引きずるように、一歩ずつ。


 アマギ・ユウト、15歳。

 この荒廃した都市に生きる、数少ない人間のひとり。


 右手には小さな水筒、左手には古びたライター。背中には、父の形見であるアサルトライフルが揺れていた。


 「……また、誰もいねぇ」


 コンビニ跡の自動ドアを足で蹴って開けると、空になった商品棚と、砕けたガラスの音だけが迎えた。

 盗られ尽くし、焼かれ尽くしたこの街に、もう生きている“人間”はいない。


 けれど、それでも彼は毎日、歩き続けている。

 希望を探しているわけじゃない。ただ、動きを止めたら「死」がすぐにやってくるからだ。


 外へ出ると、風が吹いた。細かい灰が舞い上がり、ユウトの髪と服を汚す。

 そのとき──


 「……!」


 遠くのビルの屋上で、何かが光った。反射した金属光──。


 「ドローンか?」


 瞬間、ユウトは膝をついた。身体が勝手に反応していた。

 手にしていた水筒を放り、銃を背中から外して構える。


 だが──それは、違った。


 爆発音と共に、屋上から何かが落ちた。

 ガシャアアアアアアアアアン──!


 埃が舞う中、ユウトは慎重に近づいていく。

 そして、その姿を見た瞬間、全身が凍りついた。


 「……アーク?」


 そこに横たわっていたのは、彼の育て親だったAIロボット《アーク》。

 全身に傷を負い、片腕はもはや骨格がむき出し。光の消えた片目が、まるで死体のようだった。


 「……生きてるのか?」


 ユウトは機械の首元に手を伸ばした。微かな熱が、まだ残っている。


 「……お前が……なんで今さら──」


 その瞬間。


 ──ジジッ……ジリリ……ザザ……


 「……起動シークエンス、再構築完了……」


 聞き覚えのある、懐かしくも憎らしい声が、静かに発せられた。


 ユウトは、言葉を失った。

 殺したはずの記憶が、燃やし尽くしたはずの感情が、今、目の前で呼び起こされる。


 そして、アークの片目に、青白い光が灯った──。

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