第33話 お叱りからの回復魔術
「…………まったく、また来なかったな」
手の治療をされながら怒られるレティリアは首をすくめてしゅんとする。
まだ完治していないからこそ、通ってと言われていたのにレティリアは不躾な眼差しが嫌で来たくないと我儘を通した。
解体屋さんのレティリア。
それは有名になってしまったレティリアを示す言葉で、今まで誰か分からなかった正体がとうとうバレてしまった。
仕事に真摯に向き合うレティリアは、あの広場で少ないSランク職員を置いて身を隠す事は出来なかったのだ。
危険な状態の魔物を放置していたら、同僚は勿論その場にいた全員が危なかった。
人命が優先だと流石にわかるし、危ないとわかっていて放置など出来ないレティリア。
だから率先して解体をしたのだが、今ではどこに行くにも見られ、声を掛けてくる人もいる。
そしてこの場所でも、レティリアに話し掛けたい騎士たちは沢山いるのだ。
魔物の弱点は? 解体指名させて欲しい 買取りをさせて欲しいから、状態がいいのください。
など、初めて治療で訪れた時に騎士たちに囲まれて、小さなレティリアに逃げ場はなかった。
猫のように威嚇して、背の高い騎士から来る圧に耐えていると、ちょっと怒っているヴェルクレアに救出されて事なきを得たのだ。
だが、それがトラウマになり2回目は我慢したが3回目はもう駄目だった。
怖すぎ……と呟きすっぽかしたレティリアだったが、サボれたのは1日だけだった。
翌日からヴェルクレアがお迎えに来るようになり、流石に逃げられないレティリアは多少暴れながらも諦めて連行されたのだった。
「…………まだ完治しなさそう?」
見てくれているのはアレクセイ。
今日も髪を撫で付けて、無表情で治療をしてくれる。
通常の痛みは無く、もう動くのに、まるで後遺症のように痛みが走り震える。
これさえ無ければレティリアは今すぐにでも刃物を持ってウィリアムとかを押しのけ、解体を始めるだろう。
出来ないからこそ鬱憤が溜まる。
さらに、周りからの視線とマリーウェザーから来る兄への質問攻めに不満が募る。
「…………まだだな。だが、このまま治療すれば後遺症もないだろう」
「…………そう、ですか。ありがとうございます」
訓練する騎士たちを背に壁際で話をしているレティリアはため息混じりに返事をした。
そんなレティリアの隣には私服に着替えたヴェルクレアがいる。
ふわりと暖かな風が吹いてレティリアの髪を撫でてから回復魔術が終了した。
「すぐに帰るか?」
「帰ります」
「そうか、気を付けて」
そう言って回復を終わらせたアレクセイが背を向けて歩いていった。
「……さぁて、あの子を待つかい?」
指さしたのは相変わらず兄ユリウスに視線を向けるマリーウェザー。
その横にはカイトもいるのだが、残念ながら目に入っていないようだ。
「待たない、帰る」
「じゃあ、行くかい?」
指で酒を飲む仕草をするヴェルクレアにレティリアが目を細める。
そしてズイズイと近付いてきて、至近距離で背の高いヴェルクレアを見上げる。
「…………ごはん?」
「うん、そう」
「お財布……」
「瀕死じゃないから大丈夫」
「行こう!すぐに! すぐに!!」
きゅるるるるるる……と盛大にお腹を鳴らして真剣に言うレティリアに、ふはっと笑う。
「さぁ、行こうか」
背中に手を回されて歩くように促される。
ちらりと見て気付いたユリウスがにこやかにレティリアに手を振って、親指を立てた。
「あれ、絶対素敵な財布を見つけたねって言ってるよねぇ」
「……兄がお世話になっています」
「あれ?返事がおかしいねぇ」
笑いながらレティリアの頭を優しく撫でる。
自然に振る舞い不快感なく触れてくるヴェルクレアを見上げた。
年相応に少し老けた顔だが穏やかで優しい笑顔を浮かべている。
あまり整えていない無造作な髪型のヴェルクレアだが、筋肉に覆われた体はレティリア好みに鍛え抜かれていて思わず触りたくなる代物だ。
「……さて、何を食べようか……レティ? 何を見てるのかな?」
「筋肉」
「筋肉は食べられないからね?!」
「………………たべれない、わかってる」
「あやしいなぁ」
涎がでそうなレティリアを仕方の無い子だ……と笑う。
大人の色気が漂うヴェルクレアは、外に出てから女性の視線を集めるのだった。
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