第30話 職場にて
血塗れのまま帰るわけにもいかず、一度職場のギルドに戻る。
後処理もあるため、久々の休日はまた返上のようだと、ドロドロの服を脱ぎ捨て、血液のついたものを捨てるゴミ箱に入れた。
お気に入りだったのだが仕方ない。もう着れないだろう。
レティリアは解体場所のすぐ隣にある部屋に入った。
そこには、ギルバートにウィリアム、ザンダーイがいて、さらにA級で解体していた三人もいた。
ギルバートが、「ヨッ」と手を上げる。
「おーおー、おつかれ。いやぁ、滅多に見ない魔物だったなぁ。別の地方だよな」
「いた魔物は全部リーグ地方」
「…………またずいぶんと離れた場所から来たなぁ」
ウィリアムが「リーグ地方ぅ? まじかよー」と言いながら魔物についての詳細を細かく書いていく。
一度現れたらまた現れる可能性がある。だから、解体現場の魔物図鑑はその都度更新するのだ。
注意点や解体方法、どの部位を解体し、どの部位を破棄するのか。
できたらその素材についても事細かに書き、今回いなかった解体員が対応する時も迷うことなく解体できるよう、他の職員にも周知を徹底するのだ。
それにレティリアも混ざる。
「いつからだったか、違う地方の混ざり出したよな」
「うん、一昨年くらい。年に2~3体くらいの中型でB級ばかりだったけど、いきなりS級の変異種だった」
「なんだかなぁ……なんかあるんかなぁ」
ザンダーイはペンを回しながら呟く。
大事な図鑑作成だとわかってはいるが、机作業が嫌いな解体員は多く、ザンダーイもその一人。
逆にウィリアムは器用に何でもこなして、図鑑作成も丁寧で見やすいのだ。
「他地方の魔物図鑑、買う?」
「……魔物図鑑、なぁ」
巨大な図書館には各地域別に魔物図鑑が置いてあり、豊富なのだが貸出期間がある。
集中しすぎたり周りに又貸しして図鑑返却を忘れる事案が相次ぎ、ギルド所属の解体員は貸出不可となっているのだ。
それはもちろんレティリアもで、見るために図書館に通っているのだ。
そんな魔物図鑑、他の地方も出るなら覚えなくてはいけない魔物が増える。
現れる魔物の地方はさまざまで、範囲は広い。
覚えるにしてもなぁ、範囲を絞れないし……と困惑する解体員たちはため息を吐き出した。
「…………パーフェクト解体員でも目指すかぁ?」
「なにそのだっせぇ名前」
ギルバートの言葉にウィリアムが笑い、ザンダーイも釣られたが、レティリアだけが目を輝かせた。
「全国各地の魔物……エキスパート……」
「あ、やべ。変なスイッチ入れたわ」
「うーわ、めんどくせぇことになるじゃねぇか」
覚えた新種はだいたい誰かを捕まえて講義を始めるレティリア。
だから、見たことない魔物の生態に詳しくなる解体員がいたりするのだ。
「…………ちょっとー、責任もってレティリアの講義はギルバートさんが受けてくださいよー」
引き締まった体の女性の先輩は嫌そうに言った。
ロッカーが近いから、よく講義の餌食になる一人なのだ。
「え、アンリエッタさん今回のギャリビーンの話聞きたいって?」
「言ってないわよ!!」
騒がしくも笑う図鑑作成の人たちの声を聞きながら、解体現場は、今日も相変わらず平和だなぁ……と的外れなことを考えながら、運ばれてきたA級の魔物の取り合いに目を光らせた。
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