第29話 出張解体ショー 5
ギャリビーンの首に飛び上がったレティリアは、下にいるヴェルクレアとザンダーイに声をかける。
「上からいくよー先輩達は下からお願い。崩れ落ちる前になるべく上終わらせる」
「おー」
「進行塩梅言いながらやるぞー」
たまに、巨体の魔物が現れた時は複数で解体をする。
この時、横たわる魔物の様子を見ながらバラバラに解体を初めて体が崩れすぎないようにバランスを取る。
体を先にやっつけると、頭の重さに負けて地面に頭から倒れたり、逆も然り。
なので、全体のバランスを見てやるのだ。
頭にレティリア、足元にザンダーイ、胸元あたりにウィリアムがいて、それぞれを離れて見ながら支持するBランクか1人。 切りすぎたり崩れそうな予兆があれば、見ているBランクが声を上げるのだ。
「頭落とすよ」
首の皮を触る。
さっきは喉仏側にいたレティリアだが、今度は背骨側にいた。
立ち上がろうと地面に着いたのか手が浮き上がった状態で死後硬直がはじまっているのか、微妙な体勢でいるギャリビーン。
その腕の上に喉仏をさらした状態で長い首を晒して頭を乗せていた。
今にもグルグルとうなりそうな迫力なのは、目が見開き黒目が縦に開いているからだろう。
爬虫類型の魔物の目に似ている。
それを見てから首の後ろ、項を触って骨と筋肉の境目を探した。
「………………軟体動物みたい」
グッ……と押すと喉仏側とはまた違った感触で骨の位置が把握しずらい。
ぐにゃりと柔らかく死後硬直が一切していない項側は随分と柔らかな皮が取れそうだ。
まずは、首を落とす。
「………………ん、ここだね」
一瞬、よく分からないくらいの変化だがコリッ……としたものがあった。
そこに迷いなく巨大な首切り包丁を宛てがう。
そして、一切の躊躇もなく表情ひとつ変えないで切り落とした。
ブォン……という風の音がした。
首を斬る巨大な出刃包丁のような形の刀を振り抜いたのだが、なんの抵抗もなく切り分けて頭は地面に落ちる。
それに下から悲鳴が聞こえたのでちらりと見ると、誰かが倒れたようだ。
うっすらとピンクページュの髪が見えた気がしたが、すぐに作業に戻る。
柔らかくぐにゃりとした弾力だった首なのだが、肉は思いの外弾力があった。
攻撃をいなす為に皮膚が柔らかく進化したのだろう。
レティリアの前世だった《私》が作った時にはそんな皮膚にはしなかったはずだし、毒袋も丸型だったのを覚えてる。
最近地域的に現れない魔物が出てきていて、ストーリー的に何かが起きているのかもしれないが、残念ながらレティリアは覚えていなかった。
ストーリーは忘れているのに魔物の情報は覚えているレティリアの魔物脳に自分でも思わず笑ったレティリアだった。
その後A級も合流、市民や騎士が見ている中、瞬く間に解体していった。
汚い臭いと思われていた解体を実際に見た人達はその仕事量に驚くし、小さなレティリアがS級と言われる魔物を綺麗に捌いていく姿に驚愕していた。
解体場所にいるレティリアというS級の解体員が誰なのか、ここでバレてしまったのだが、文句の付けようもない技術と知識、そして損傷しても辞めない職人気質を見て閉口することとなる。
「………………レティ……あなた、こんな仕事をしてたの……?」
呟くアイリスは市民だから近くには寄れない。
だが、その場でも十分に見えるのだ。
両手を負傷しても辞めず、巨大な魔物相手にナイフを振るって首を落とした事に目を丸くして、さらに騒がしくなる周りの声に思わず自分の事のように幼なじみなのよ! と声を張り上げた。
一人ぼっちの幼なじみだから、声を掛けないとと無意識に思っていたアイリスは、色んな人に囲まれ話をして、血まみれのまま仕事をするレティリアに驚き衝撃が走る。
「…………凄いわレティ……ギルド職員って言ってたけど、毎日こんな感じなの……?」
その驚きは、大食いだと有名な食事処の人たちもだった。
だが、屈強でガラの悪い先輩たちの間にちょこんと座る小さな女性。
たまにいる綺麗な年上の女性もその場にいて、全員が解体現場の人達なのだと理解はしても凄すぎる現場に乾いた笑いがもれた。
「…………これは、サービスしないとなぁ」
魔物の肉は食材になる。
それを買い取り料理する店の人から、解体した本人達が買い漁り木製のコップを打ち鳴らして大宴会をするのだ。
ははは……と笑ってそう思うのはひとりやふたりじゃなかった。
こうして、突如始まった野外の出張解体ショーが終わった。
全身血まみれで笑う解体員を驚き見る市民や騎士達。
ギルドの殆どは知っているから、ほとんどの人がS級である3人に話を聞きに行き丁寧に説明を聞いている。
その傍らで、ヴェルクレアとアレクセイがレティリアの腕の様子を見るという不可思議な様子があり、情報が凄すぎると全員顔を見合せたりとソワソワしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます