第24話 久しぶりの図書館 2


 まだ騒がしいスクロールのカウンター。

 ヴェルクレアは購入してくる、小さく笑って歩いていった。注意をするのだろう。

 それを黙って見ていると、漆黒の服を着る男性もその場に合流した。

 高身長で筋肉に覆われた細い体。

 銀髪を撫でつけているその人はヴェルクレアと少し話をしてからスクロールカウンターへと一緒に歩いていく。


「…………へぇ、こんな近くで初めて見た」


 目を見開いて呟いたレティリアだったが、それもそのはず。

 彼はアレクセイ・ティアーズ。

 回復術師の隊長をしている人で、常に忙しく動き回るその人は宿舎や訓練場からあまり出ることは無い。

 ヴェルクレアの直属の上司で、何度も昇進試験を受けろと持ちかけている張本人らしい。

 そんな彼の手にも魔術の本があった。

 スクロールは大人気だ。


 そんな様子を見ていると、隊長と古参の回復術師から急に声をかけられたディランは驚き慌てている。

 何やら注意をされたのだろう、かなり焦っているようだ。


「…………変なひと」


 小さく呟いてから、また図鑑に目を向けた。

 それから20分程だろうか、静かに図鑑を見てまだ運ばれてきたことが無いS級の魔物を眺め、解体のシュミレーションをしていた。

 まさか、すぐ後にこのシュミレーションが役に立つとは思いもよらずに。



「レティ」


「………………ん?」


 集中して図鑑を見ていたレティリアは、呼ばれた声に一拍遅れて顔を上げた。

 そこにはヴェルクレアとアレクセイ、そしてディランがいる。

 不貞腐れているディランは、2人に気付かれないようにレティリアを睨んでいた。

 機嫌が悪いようだ。


「レティ、俺たちは訓練所に戻るけど一緒に行くかい?」


「…………え?」


 首を傾げるレティリア。なんで? と疑問符を浮かべていると、畳み掛けるように名前が出てきた。


「ユリウスが会いたがっていたよ」


「…………じゃあ、行こうかな」


 悩んでから頷くレティリアに、なんでだよ! と突っ込みたいけど突っ込めないランディが混乱していた。

 レティリアを知らないランディからしたら至極当然だろう。


 すぐに立ち上がり図鑑を戻したレティリアは、チラリとスクロール職員を見る。

 まだ怒っているゴリマッチョに、それを宥める絡まれていた女性ラズフェア。

 どうやら落ち着いたようだと見ていると不意に目が合った。

 困ったように笑うその姿にレティリアは苦労してるんだなぁ……と小さく頷いたのだった。




「…………入場の札……みたいの今持ってないけどいいの?」


「俺もアレクセイもいるから大丈夫」


「……ふぅん? 隊長呼び捨て……」


「隊長だけど後輩だからね、人が少ない時は名前で呼んでいるんだよ。規律の乱れになるからって言っても名前で呼ぶことを譲らなくてね」


「後輩……」


 20代前半で脅威の大出世をしたアレクセイはチラリとレティリアを見る。

 そして、静かに口を開けた。


「……先生の知り合いか」


「先生……」

 

 予想外の言葉に目を丸くする。

 どうやら新人研修やその後の指導役はヴェルクレアの仕事でもあるらしい。

 アレクセイもだが、彼が教える回復術師は一定以上の力を発揮して活躍しているようだ。


「この子はレティリア。ほら、ユリウスの妹だよ」


「………………あぁ、良くユリウスが話してる」


 何を話してるんだ……。

 この間マリーウェザーに連れていかれた時もユリウスの妹として何やら話が出ていた。

 常日頃ユリウスが話をしているのか……と眉を顰めるレティリアに、小さく笑って人差し指で眉間をグリグリとマッサージされる。


「力入ってるよ」


「兄が何をしでかして私の話が流れているのか、1度膝を突合せて話をする必要があると理解した」


 むむ……と不機嫌に顔を歪めるレティリアが、ユリウスの妹と聞いて目を見開くランディ。

 ランディからすれば、ユリウスは直属の上司だ。


 そんな異色の3人が歩いている時、急にゴーンゴーンと鐘の音がなった。

 この鐘がなる時は、ある意味緊急時である。

 レティリアは目を細めて広間の方を見ると、一緒にいた3人は一気に走り出す。

 その後に着いていくように一緒に走りだしたレティリアに3人はギョッとした。


「レティ! 来るんじゃない!! この音は緊急時の鐘だ!」


「………………ヴェルさん、わかってる」


「わかってない!!」

 


 静かに答えたレティリアに怒鳴るヴェルクレア。

 ほか2名もかなり険しい顔をしたてレティリアを見ている。

 この鐘は騎士団でも冒険者でも誰でも対象の、周りに被害を与える魔物が持ち込まれた場合になる。

 ある程度の魔物の生態はわかっているが、遭遇確率の低い魔物の場合は分からず街の中に持ち込まれる場合があるのだ。

 その時にはギルドに運び込まれる前に街中や広場に放置され、ギルド解体班が出張する。

 魔物の種類によりS級解体が出来る人が必要になる為、こういった場合は基本的に1度向かうことになっていた。


「…………私はギルド職員だよ」


「………………っ」


 解体以外にも、どのギルド職員も対応の為に集まるようになっている。

 その殆どが休日の職員だ。

 だが、困った事に休日の外出中だから仕事道具が何も無いのだ。

 もし必要な時、困ったなぁ……と思いながらヴェルクレアたちの後を追いかけて行った。

 

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