第23話 久しぶりの図書館
レティリアが所属している解体現場はなるべくホワイトな職場を目指している。
仕事に慣れるまでの離職率が高い職場でもある為、過ごしやすい環境作りにも力を入れているのだ。
だが、現れる魔物の種類や数によって緊急招集されることもあるし、休み変更を頼まれて休日出勤もある。
レティリアは一人暮らしであまり予定もない為、頼まれたら引き受けることが多いのだ。
そのため、ここ何回かの休みがを潰していて久々の休みに図書館でも行こうかと一人頷いて準備を始めた。
レティリアは、いつも魔物に関する本を読んでいる。
知識や技術を手に入れる為であり、更には騎士などが沢山くるこの場所で筋肉の鑑賞も出来るから一石二鳥である。
最初は魔物の動きに必要な筋肉の動きを勉強、更に、人間の筋肉の動きも似通っている場所があるからと動きを観察するようになってから既に5年以上が経過した。
流石に魔物が動いている場所で呑気に筋肉鑑賞を出来ないからとてもいい勉強になるのだが、騎士とはいえレティリア好みの筋肉にはなかなか巡り合わなかったりする。もはや趣味は解体、食事、魔物、筋肉だ。
そんなレティリアの休日は、男性の声に邪魔をされた。
「ラズフェア、早く手続きをしてくれないか」
静かな図書館内で、嫌に声が響いた。
場所はレティリアがいる場所から近いスクロールのカウンター。
スクロールとは、騎士や魔術師御用達の魔法習得の為の場所である。
初級、中級、上級にわかれていて各魔法書があるのだが、その魔法書を管理、販売しているのがスクロール科だ。
魔法書をそのまま販売するのではなく、欲しい魔法が乗っているページをスクロールと呼ばれる巻物に移して販売する。
スクロールの転写は機械で行うのだが、それは誰でも出来る訳では無いので、スクロール職員は滅多に職員が変わることは無い。
レベルに合う魔法と、スクロールどちらもお金がかかるが、戦闘時に魔法が使えなければ話にならない。
だから、この場所は騎士御用達なのである。
そんなスクロールのカウンターで、年若い女性が騎士とその付き添いだろう女性になにやら絡まれている。
どちらかといえば控えめなスクロール職員だが、その洗礼された動きは貴族の令嬢のようだ。
この世界は貴族がいる世界ではあるが、昔栄えていた貴族社会はだいぶ廃れていた。
城があり王が居て、騎士がその周りを守るとはなっているが魔物が蔓延るこの世界。
地位や名誉よりも力や対応力の方がずっと重宝される。
だから貴族とはいえ、時として冒険者に従う場合は多々ある。騎士に守ってもらう重鎮くらいのイメージなのだ。
領地経営にしても民や冒険者がいかに住み良い街づくりが出来るかに重点を置く。
じゃないと、一斉にストライキが起きて街が潰れる事もある程なのだ。
そんな貴族達も足元を掬われて平民落ちする場合もある。
また、貴族として籍を置けるのは当主とその妻、そして継承する子のみ。
それ以外の子供は成人すると平民になる為、学生のうちに身の振り方を決めなくてはならない。
勿論生家に残ることは可能だが、身分としては平民になる。
男子だろうが女子だろうが手に職を持つ為に日々忙しく動くのは、むしろ貴族の方が必死だろう。
税を尽くした生活から平民に落ちるなど、貴族の子供は良しとしないからだ。
たとえ平民になったとしても、生活に問題ないお給金が貰える職場に内定するには貴族に籍があるうちの方が良いのだ。
だから、スクロール職員の女性も必死に職を勝ち取ったのだろう。
スクロール職員とは、一部の適性がないと出来ない職場だ。
「初級の火魔法だ……今日も頑張って働いてるなぁ、ラズフェア。俺との婚約が破談にならなかったらこんなに苦労しなくても良かったかもしれないのにな。まぁ、今更遅いけど」
嫌に響く声にレティリアは眉を寄せる。
それは女性も同じで無表情の顔は男性を見ることなく受け取りスクロールを機械にセットしていく。
他のスクロール職員、もかなり気にしているようでチラチラと見ていた。
ゴリマッチョの職員が、今にも飛び出しそうにしている。
「…………あの人なに」
「うん、ランディ・ミラージュ。残念ながら第3師団の騎士だね」
「わぁ! びっ……くりした……ヴェルさん」
「やぁ、久しぶり」
声をかけたのは回復術師のヴェルクレア。
真っ白い服を身につけているので、今日も仕事中なのだろう。
優秀な回復術師なのだが、昇進試験を受けないと兄のユリウスが嘆いていたのをレティリアは知っている。
そんな彼の腕には上級の回復の本を持っていてスクロールを購入するのだろう。
「……図書館員さんに絡んで何してるんだろう」
「うん、幼い頃からの婚約者だったらしいけど、ランディの不貞で婚約破棄したんだよ」
「……? それでなんであんなに偉そうなの?」
「馬鹿だからじゃないかなぁ」
「……なるほど」
ふぅん……と返事をしながらペラリとページを捲る。
何度も見た魔物図鑑。そこに居るS級の魔物の筋肉を辿るように指先でそっと撫でるのをヴェルクレアが見ていた。
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