第22話 大事なのは、やっぱりこれ


 指先でタンタン……と叩くレティリアは真剣な顔で話し出した。


「ギルドで行う解体は、とにかく金がいい!」


「………………は?」


 全員がポカンである。

 え? 解体の勉強会だよね? え? と首を傾げる人続出の中、レティリアが続きを話し出した。


「他部署もだけど、ここも激務。夜遅くに搬入される魔物もいるから夜勤もあるけど、でも! 休みは確保されるし有給消化も出来る。最低賃金は他と一緒で保証されてるけど……仕事の出来や魔物の等級によって給料跳ね上がるよ」


 ここに居る人達はまだ初任給は貰っていない。

 部署異動する前の給料もギルド職員は元々高給取りだから悪くないのだ。

 だが、ここはそれどころじゃない。


「あのね、頑張れば頑張るほどお給料に反映するの。生活が豊かになるから、お子さん4人いるダンさん家族もまったく問題ないって言ってたよ」


 ちなみにダンさんはA級である。

 A級受講中のダンさんは手を振って笑った。


「大変でも、俺ここ以外の仕事はもう無理だわー」


 ニカッ! と笑って言うダンに、全員がそんなに……と見つめる。


「特B級なら2ヶ月分を1ヶ月で稼ぐの余裕」


 それに移動組は目の色を変えた。

 元々給料は悪くないのに、それが倍になる?! と喉を鳴らす。

 やはり、金は偉大だ……と目の色を変えた人達を見てニヤッと笑うレティリア。


「等級が上がると給料とは別に色んな上乗せがある。A級捌くだけでもインセンティブがっつりつくし、仕上がりが綺麗ならその分もつく。解体ノルマはないけど、やればやるだけお金が溜まるよ。私達がこぞって解体したいのは、魔物解体が好きなのもあるけど、お金が貰えるから!!」


「現金だなぁ」


 笑うウィリアムにお金大事と、レティリアが言う。


「モチベーション上がらないなら最初は給料の事考えたらいい。頑張ればいつもより美味しいの食べれる。買い物できる。オシャレできる。やればやるだけ解体が好きになるかもしれないし、悪いことない。だから、辞めないでまずは1個上がるところから頑張れ。男性とか女性とか関係ない、私でも特Sまで登り詰めた。体力、体幹だったり技術面以外にも磨かなきゃいけないことあるけど、何回もやって体で覚える。指先の繊細な感覚も大事。やるべき事は沢山あるけど、やりがいもあるから。それでもドロップアウトしたくなったら、まずは誰でもいい、相談して」


 これ、俺らも言われなぁ……と2年目解体員はしみじみと思っていた。

 そして、新人だからこそだがとても丁寧に教えてくれていたのに気付くのも2年目からだ。



「器具の説明はいいよね? じゃあ、続きいきまーす」


 テキストを渡してから、それに沿って教えていくレティリアをもう馬鹿にするものはいなかった。

 何を聞いても答えてくれて、実演も詳しい。

 執拗いほど聞いても、嫌がる素振りも無かった。


「この魔物は肉が食用になるから、必ず消毒してるナイフを使って。皮の端が1番美味しいから、依頼主はわざと肉を付けて切ってって人いるから、必ず発注書確認するといいよ」


「あの、この皮の剥ぎ方なんですけど……」


 新人はほぼ初心者研修の様なものだ。

 皮の剥ぎ方、ナイフの入れ方や角度。

 指先で確認する弾力や見た目、臭いなどで死後から何時間経っているか。死後硬直の見極め方。

 腐敗の状態によっても捌き方が違ったりと魔物一体一体違うのや統一されているのがある等、新人からみたら気が遠くなるほどの知識量が必要だと、今更ながらに移動組は理解して冷や汗が流れた。

 魔物なんて、種類は何千種類もあり覚えきれる気がしないとレティリアを見るが、との魔物が出てきても淡々と答える姿にマジかよ……と声が漏れる新人たち。

 しかもそんな人たちがゴロゴロいるのだ。


 給料がいい、でも……と悩ましくなるが、ここでまたレティリアが話し出した。


「ちなみに、2段階昇級したら離職率がグッと下がるよ」


 なんてタイムリーなことを言うんだ……とレティリアを見てガタガタする新人たちは、自分の前にある死んだウサギ型の魔物にナイフを差し入れた。




「いやぁ、今回も相変わらずレティリアにぶん殴られてたわねぇ」


「殴ってない。蹴っただけ」


「同じじゃない」

 

 笑いながらレティリアの背中を叩いたのは、同じ早番の先輩ふたり。

 珍しく女性3人が早番で揃ったので、ただいま一緒に着替え中。

 相変わらずのサロペットに着替えたレティリアは髪をバサリと出して軽く結んだ。

る「今回は何人残るかなぁ」


「人数少ないからなるべく残って欲しいわよね」


「今年特に女性少ないし」


 ねぇ、と話す先輩達の話を聞きながら鞄を持った。


「お先でーす」


「はーい、気を付けてねー」


「また明日ー」


 朗らかに笑う先輩達に手を振って、晴天の空の下ゆっくり歩くレティリアは今日も空腹だと腹を撫でた。 

 

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