第9話 守りたいジジイ達と自由な娘


マリーウェザーに言った理由はその通りなのだが、一番の問題は魔物に詳しすぎる事だった。

 どこが弱点で、どんな個体でとんな特殊な進化をするか。

 解体技術、素材の丁寧な扱いは超一流。

 さらに、それによってもたらされる様々な素材の使い方を、前にポロリと口から出てしまった事がある。


 

「…………どうしてファイヤードラゴンの骨を使うの? 」


「ああ、ファイヤードラゴンの骨は丈夫だろう?

  これを砕いて粉にして混ぜるんだ。これで防具の力の底上げだな!! ブラットバットの背骨と掛け合わせて暗視も付けて……」



 今もだが、魔物好きの人は実験と称して仕上げでこそげ取り売り物にならない素材を合成して遊ぶ人が一定数いる。

 その先輩もで、楽しはそうな様子に首を傾げた。

 明るく言った先輩に、当時見習いだったレティリアは先輩の手元を不思議そうに除きこみながら言う。


 それ、意味ないよね?



 ポツリとこぼされた言葉に先輩は目を丸くした。


「ファイヤードラゴンの他人の力を吸収するのは骨からだから、他の素材と骨を合成しても骨に吸収されるよね? それならファイヤードラゴンの素材を使うか、相殺される素材を合わせて吸収を止める必要があるんじゃないかな……それなら複数種類の素材を混ぜて作れますけど掛け合わせ的に最低5個にならない? それ以外の付与を乗せるならもっとだから造り手の負荷が強くなるし。確かにファイヤードラゴンの骨は強いけど、なら代替えの……………………先輩?」


 つらつらと話し出したレティリアにポカンとする先輩。

 今は正式に魔道具作りに移動してしまったその先輩は、この時衝撃を受けたのだとか。

 魔物の特性を色濃く宿す素材は、当時部位によって力の偏り等があるのは周知されていたが、どの部位がどう……と詳しい内容は開示されていなかった。

 これは素材を扱う技術員が個々で調べあげて秘匿するものであり、誰かに教えを乞うものでは無いのだ。

 その人それぞれが作る武器や防具には特徴があり、それがまた楽しい。

 造り手は、最高の逸品を作る為に日夜努力に励んでる。


 そんな中、まだ解体員として入って1年程の幼い少女が、当たり前のように素材の特性を話し、先輩から骨の粉を取り上げる。

 自分でやると荒くなってしまう粉を、魔力を使ってまるで砂浜の乾いた砂のようにサラサラに変えてしまった。

 細やかな魔力操作が出来ないと作り出せない上物である。


 この目の前で出された惜しげもない知識と技術。

 元々解体も上手いこの少女は、一体何者なんだろう……と寒気すら感じたらしい。

 そして、すぐさま少女を抱き抱えて解体の責任者へと走っていった。

 

 素直な少女だった。聞かれたらその答えを素直に話し、それが特別な事だと理解していない。

 素材同士を合成して重ね合わせる事で何が出来るかも理解していた。

 末恐ろしい子供。その時のレティリアの評価だ。

 それとは真逆に本来は可愛らしい少女なのだ。


 悪い人の手に渡ったら、一生囲われこき使われるのが目に見える。

 利用するだけ利用して飼い慣らされるのが想像つくのだ。

 だから、すぐさまギルド長と吟味して少女を隠蔽することにした。

 レティリアの情報を漏らさないように、小さな子供は尚の事目立つからギルド職員は全員でこの小さな子供を守る事にした。


 だが、隠したいのに彼女の成長と共に整った外見が目を惹き、さらに上昇する解体の腕に知識と、違った目立ち方をし始めたレティリア。

 古株達は頭を悩ませる。

最初は魔法契約で外部に情報を漏らさない為の制約を結ばせる案も出たが、不自然すぎる。

 完全に隠すよりも、重要な事を漏らさずレティリアという男性の解体員がいるとわかるように情報操作をした。

 当時からいる古株だけが知るレティリアの秘密としたのだ。

 

 仕事を始めて10年、彼女はもう家族みたいなもものなのだ。

 ただ好きな魔物を眺め、解体を楽しむだけでいい。

 変な魔道具師にも貴族にも、誰にも気付かれないように大事に大事に守っていく。

 見つかったら、大好きな魔物とその素材で彼女は殺戮兵器すら作り出してしまうから。


 そう思う古株たちとは裏腹に、自由すぎるほどに成長したレティリアは、自らの技術と知識に頓着しないで好きに生きる。

 守られる少女時代はもう、終わりなのだろうなと残念な気持ちにもなりながらも、今日も成長を見守るのだ。



 

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