第7話 中央広場の魔物様


 ゴーン……ゴーン……


 王都に響く鐘の音に全員の足が止まった。

 仕事終わりのレティリアも同じで、無意識にある方向に目が向く。

 街と外を隔てる外門が今頃大きく開いている頃だろう。


 この音は、魔物討伐隊部隊が帰還する合図である。

 放置しておくと増える魔物を定期的に討伐に向かう魔物討伐隊は毎回命懸けで帰ってくるのだ。

 その時の敵の数や種類によって遠征は日帰りの時もあれば数日、数週間にも及ぶ。

 今回は3日間で比較的早く終了したようだ。

 遠くでザワザワと騒ぐ声が聞こえレティリアは、くにぃ……と笑みを浮かべた。


 この喧騒によって、魔物討伐隊の怪我や死者が何となくわかる。

 この笑い声が響く感じでは重篤者は居ないようだ。

 それなら、レティリアは満面の笑みで迎えようでは無いか! と足取り軽やかに向かったのだった。



「おかえりー!! 」


「怪我はない? 私の可愛い坊や! 」


「ちょっ……かーちゃん! やめろって!! 」


「隊長ー!! 素敵ー!! 」


「ミラティエ様ー!! こっち向いてー!! 」


 沸き起こる笑い声や、進行が止まっている魔物討伐隊の周りに家族が集まり無事を確かめている。

 問題なく帰ってきた時、その足を中央広場で止めて住民たちに無事を知らせてくれる魔物討伐隊はとても人気である。

 今回は第2部隊遠征だったようで、特に穏やかだ。


 魔物討伐隊第2部隊、それは本作の主人公が所属している場所で、ちょうどその人の傍に今、マリーウェザーがいる。


「あ、あぶない」


 人垣を越えて前に出てきたレティリアは、ちょうどその場面を見て回れ右をする。

 レティリアの目的は主人公とヒロインのイチャイチャを見る為ではないのだ。

 付き合ってはいないが、人目をはばからず傍に寄り添う2人。

 違うのだ。レティリアの目的は討伐対象である。

 

 ブレずに魔物一直線なレティリアは後方に運ばれてくる魔物を見ようと移動すると、ヒョイと持ち上げられた。


「ふぉ!! ………………先輩じゃないかー」


「どうせあれだろ? 魔物見に来たんだろ? 」


「当たり。先輩も? 」


「当たり前だろー。討伐隊に興味はねぇ」


「同じく。魔物を前に他はいらないかな」


 埋もれているレティリアを解体員の先輩が見つけて救出してくれたようだ。

 この救出も良くあることで、今更驚かない。

 むしろ周りが驚き2人に視線を向けてくる人もいれば、あー、またこいつかと、じとりとした眼差しを向けられる。

 どうやら討伐隊を見ていると勘違いされているようだ。

 しかし、そんな視線も何のその。肩に乗せられ他の人よりも頭2つ分飛び抜けたレティリアは後方をじっと見た。


「今回はなんだ? 」


「んふー! 当たりですよ!! ワイバーンさんじゃないですか!! 」


「お! まじか!! 」


 先輩の頭をパシパシと叩き、もっと近くに! と伝えると、歩き出してくれる先輩。

 ズンズンと人垣を割ってくれる様子は魔物討伐隊からも見えるわけで、少しザワザワとしていた。




 

「あ、またあの子」


「衝撃だよな、あの様子。そんなにお目当てがいるのかな? 」


「あそこまでして……騎士が好きなのか? 」


 そんな騒がしくなってきた騎士たち。

 実は隊長達にまで認知されていたレティリアだったが、やっぱり残念な事に騎士狙いだと思われている。

 騎士狙いは一定数いて、だれも魔物を見ているなど思いもしないからだ。


「…………あ、あの子」


「マリー知ってるの? あの子目立つよな。誰が好きな相手なのかって結構噂になってんだぜ」


「え? いや、魔物見に来たんじゃないかなぁ」


「………………へ? 」


 マリーウェザーだけが正しくレティリアを見ていた。

 解体員は等しく魔物、または解体が好きなのだ。

 だから、魔物を見に来たと思ったのだろう。

 しかし、本作の主人公は笑いながらマリーウェザーの頭を撫でた。


「まさか! 女が魔物を見たがるとか、どんな物好きだよ」


「でも……あの子……」


 解体員……そう言いたかったが、個人情報に引っかかるから口を閉ざした。

 何故かはいまいち分かっていないが、周りの先輩達もレティリアの事を聞かれても言わないようにと口酸っぱく言われているのだ。

 たとえ本人が目立つ行動をしているとしても。

 無闇矢鱈に隠れたりしない、自然体なレティリアを見てから、不思議そうに首を傾げて見てくる本作の主人公に、マリーウェザーは笑って誤魔化したのだった。




「いいねー、ワイバーン3体。武器は……なんだろう、見た目綺麗だから一撃で倒してるのかな? ただ、裏側や積み重なった下側のワイバーンはちょっとわからないけど……」


「飛行タイプの方だろ? なら一撃は難しくないか? 」


「わからないけど罠かな? 何にしても綺麗な状態だと皮剥ぎが滑らかだからやりがいるよね! 」


「……………………お前、今日の仕事終わったからどっちにしても出来ないだろ」


「!! ああぁぁぁぁ!! なんなの! この間からいい事ない!! 」


 バジリスクの解体に間に合わずに先輩達に取られたことにしても、新人のトラブルに巻き込まれたことにしても、レティリアは残念すぎるのだ。

 バジリスクなど、解体員にしてみれば中々会えない魔物だから見るだけでも貴重なのに。

 レティリアは捌きたかったとグチグチ文句を言う。

 同僚から見たレティリアの魔物好きには驚かされるが、特Aや特Sを捌ける先輩たちも似たり寄ったりだから後輩たちは戦々恐々である。

 

 ワイバーンを捌けない指摘を受けて、怒り狂うレティリアは先輩の頭を思いっきり叩くが、衝撃はあまりなく苦笑される。


「諦めろー。お前は大人しくDを捌いてろって。代わりに遅番の俺が捌いてやるからよ」


「許せない!! だからなんでDなの!! せめてBにしてよぉ!! 」


 肩車でバタバタ騒ぐレティリアを魔物討伐隊達はお目当てが居なかったのか? と見ていてる中、黒い甲冑姿が殆どの魔物討伐隊の中に唯一いる真っ白な法衣を着た団体のうちの1人がレティリアをじっと見ていた。

 

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