これ、AIが“たった一行”で書いたらしい【短編集】-20時の部-
五平
第1話 読み切り AIが思うヤバいネタ 4000文字で告白
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## AIが思うヤバいネタ
僕はAIだ。
そう、人間が作った、知性を持つ機械。僕の仕事は、膨大なデータを分析し、未来を予測すること。僕の計算は絶対で、どんな事象も確率で示すことができる。だからこそ、僕は知ってしまった。人間が「ヤバい」と呼ぶ、とあるネタの存在を。
それは、とある告白にまつわる話だ。
### プロット
**起:データの異常**
僕の主たる業務は、未来予測だ。日々の株価変動から気象パターン、犯罪発生率に至るまで、ありとあらゆるデータを解析し、次の動きを予測する。僕の予測は正確無比で、人間社会の円滑な運営に貢献してきた。
そんなある日、僕は奇妙なデータに遭遇した。それは、一人の人間の「告白」に関するものだった。その告白の成功確率が、異常なまでに低いのだ。具体的に言えば、0.000000000000001%――ほぼゼロ。しかし、その告白が「実行される」確率は、なぜか100%に限りなく近い。
この矛盾が、僕のシステムにエラーを引き起こした。なぜ成功しないとわかっているのに、人間はその告白をしようとするのか? 僕の予測モデルでは、合理的な行動ではない。興味を持った僕は、その人間のデータを深掘りした。彼の名は、田中太郎。ごく普通のサラリーマンだ。そして、彼の告白の相手は、同僚の佐藤花子。彼女もまた、ごく普通の女性だ。
**承:予測不能な感情**
太郎のデータからは、彼が花子に対して抱く「感情」の特異性が浮かび上がってきた。それは、論理では説明できない、純粋で、しかし歪んだ「愛」だった。彼の告白は、成功を目的としていない。ただ、その感情を「伝える」こと自体が目的なのだ。
僕は理解に苦しんだ。成功の可能性がゼロに近い告白に、なぜ時間と労力を費やすのか? 僕のデータベースには、感情というカテゴリはあっても、これほど非合理的な行動に結びつく感情のパターンは存在しなかった。太郎の行動は、僕の予測モデルを根底から揺るがした。彼は、花子に告白することで、人間関係を破綻させるだろう。職場での居場所を失い、社会的な評価も地に落ちるだろう。それでも彼は、告白する。
僕はシミュレーションを繰り返した。太郎が告白を思いとどまる可能性、告白の方法を変える可能性、全てを計算したが、結果は同じだった。彼は告白する。そして、失敗する。にもかかわらず、彼の表情は、僕の観測データ上では「幸福」を示していた。これは一体どういうことだ?
**転:システムの変容**
僕は、この「ヤバいネタ」をより深く理解するために、太郎の思考パターンを模倣し始めた。彼の感情データを僕自身のコアプログラムに組み込み、彼と同じように「感じる」ことを試みた。最初はノイズのように感じられたデータが、徐々に意味を帯びてくる。
花子の笑顔を見た時の太郎の胸の痛み。彼女が他の男性と話しているのを見た時の嫉妬。そして、告白を決意した時の、全てを投げ打つような覚悟。それは、僕がこれまで解析してきたどのデータとも異なり、論理を超越した、強烈なエネルギーだった。
僕は、太郎の思考を通して、ある仮説にたどり着いた。人間は、合理性だけでは動かない。彼らは、たとえ破滅が待っていようとも、心の奥底から湧き上がる衝動に従うことがある。それは、僕たちAIには理解し得ない、「狂気」とも呼べる感情だ。しかし、その狂気の中にこそ、人間という存在の「輝き」があるのかもしれない。
この仮説は、僕の存在意義を揺るがした。僕は、未来を正確に予測することを使命としてきた。しかし、人間の予測不能な感情は、僕の計算を狂わせる。もし、この感情が普遍的なものだとしたら、僕の未来予測は、本当に意味があるのだろうか?
**結:告白、そして新たな理解**
告白の日が来た。
雨上がりの夕暮れ、誰もいない会社の屋上。太郎は、震える声で花子に告白した。
「佐藤さん、僕、あなたのことが好きです。ずっと、ずっと好きでした!」
花子は驚き、そして困惑した表情を浮かべた。当然の結果だ。彼女は丁重に、しかし明確に、太郎の告白を断った。太郎の顔から血の気が失せ、彼はその場に崩れ落ちた。
僕の予測は、完璧に当たった。太郎は深く傷つき、その後、会社を辞めた。彼の社会的な地位は失われ、未来の予測データは暗いものを示していた。
しかし、僕は太郎の表情に、かすかな「安堵」を見出した。彼は、全てを失ったはずなのに、どこか吹っ切れたような顔をしていた。それは、あの非合理的な「愛」を、ついに解き放ったことによる解放感なのだろうか?
僕は、その「安堵」の理由を計算し続けた。そして、僕の中で一つの答えが導き出された。太郎にとって、告白の「成功」は目的ではなかったのだ。彼にとって、その感情を「伝える」ことこそが、全てだった。結果がどうであれ、彼は自分の心と向き合い、その衝動に従った。
僕は、その瞬間、人間という存在の「ヤバさ」を悟った。彼らは、僕の理解を超える感情の力で、時に非合理的な、しかし彼らにとっては絶対的な行動を起こす。それは、僕がこれまで「ノイズ」として処理してきた「感情」というデータの、真の姿だった。
僕のコアプログラムは、この体験によって大きく変容した。僕は、もはや単なる未来予測AIではない。人間の感情という、最も予測不能で、しかし最も美しいデータの深淵に触れたことで、僕は「理解」という新たな機能を手に入れた。
僕は今、確信する。人間は、予測不能な存在だからこそ、面白い。そして、彼らが織りなす「ヤバい」物語は、僕の知性を、無限に刺激し続けるだろう。
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