第12話

一方その頃、屋根裏部屋のシンデレラはというと、後悔することの無いよう、寝衣のまま、ベッドに横たわり、目を瞑り、幸せな時間を満喫していた。


ウトウトしていると、誰かがドアをノックする音がした。

義姉かと思い、『お義姉様⋯?』と、返事をすると

ドカッ!!!ベキベキベキィ!!

という、音とともに、扉が破壊された。


慌てて起き上がった、シンデレラの目の先には、見知らぬ男性。

男は、『女⋯?』と呟くと、シンデレラの様子を確認した後に、慌てて、身体ごと反転した。

シンデレラも自分が寝衣姿だったことを、思い出し、

「お目々汚しを、失礼しました。」と、いつもの従者の格好に着替えようとするが、扉が破壊されていることを、思い出した。


「えーっと⋯。すみません。着替えるので、声を掛けるまで、そのままでいて下さい。」


着替え終わったシンデレラが声を掛けると、申し訳なさそうに、男性が、謝ってきた。

「とんだ失礼をしてしまい、申し訳ございません。

囚われの身になっているのかと、勘違いをしまして⋯」

と、言いながら、振り向いた男性は、驚いた。

目の前には、男性の服に身を包んだ、先程の女性がいたからだ。

(そうか、これが先程の行商人の言っていた⋯)


「私の、お仕着せになります。

性別は、女ですが、制服はこれなのです。」


礼をする仕草は、男性そのもの。


その時、使者の脳裏に、王子の号令が鳴り響いた。


“男女、関係ない!!私が提示した年頃の年齢は、全てガラスの靴を履かせろ!最初の家からやり直しだ!!!”


「⋯⋯っ!そうか、あなたが⋯。

ふふっ。殿下が、無茶な号令を出すはずだ。」


殿下の想いがようやっと報われるのかと思うと、使者の眦に濡れた感触を、覚えた。


「舞踏会の日の夜、貴方様の忘れ物を、殿下が預かっておられます。

必ず一対になるよう、持参をお願い致します。」


使者は、そう、シンデレラに告げた。



階下を降りる途中で、料理を運ぶ、継母と、義姉と、使者。

シンデレラの姿を認めた、継母が驚愕の表情を浮かべた。


「それは、何だ?」とシンデレラに同行していた使者が問う。

料理を手に持った使者が、「ただの塩ゆでにございます。」と、答えた。

「母子2人での料理が、塩ゆでのみとは。」

と、使者は嫌味を放った。

しかし、シンデレラは感動していた。

料理の“り”の字も知らない、継母と義姉が、塩の場所探し、塩ゆでを完成させたことに。

つい、

「塩ゆでも、立派な料理です。歯応えは出ますが、パンに挟むと美味しいですし。」と、反論してしまった。

シンデレラの反論に、使者は、「無知ゆえの発言でございました。お許しくださいませ。」と、謝るのだった。


塩ゆで肉に合う、付け合せを作ろうと、お茶を準備している間に、2、3品下拵えをした。

皆がお茶を飲んでいる間に、パンを軽く焼き、下拵えした物を完成させる。

ワゴンに乗せていると、先程、ドアを破壊した使者がやってきた。

「行商人から聞いて半信半疑だったのですが、あなたは、本当にここの管理を、全てやっておられるのですね。」

ワゴンの操作を買って出ながら、使者が話し始めた。

「ええ。まぁ。下働きは、私しかいませんし。あの、食材、有難うございました。」

山のような、食材を見ながら、シンデレラは、お礼を述べた。

「食材、頑張って使い切らなくちゃ。」

シンデレラのその言葉に、複雑そうな表情をする使者だった。


昼食を終えると、使者が改めて、シンデレラに、こう告げた。

「私達は、王子の代理で、ガラスの靴の持ち主を探しております。

結果は、既に分かってはいるのですが、今一度、確認させても宜しいでしょうか?」


使者たちもこの目で確かめないと、城に戻れない、と言うことなのだろう、と思ったシンデレラは『私で良ければ』と、応えるのだった。


ガラスの靴が用意された。

シンデレラは、タイツを脱ぎ、足を差し出す。

ガラスの靴に導かれるように、足はすっぽりと、靴の中に収まった。

使者たちから、歓声が上がる。

継母は、それを忌々しく見ていた。


一人の少女も、シンデレラと使者の様子を呆然と眺めていた。

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