ミノルマサカさんの『誤読 - three stories of love and truth』は、ただのミステリーやと思って読み始めると、ええ意味で足元をすくわれる作品です。
しかもそれは、派手な仕掛けにびっくりするというより、読んでるうちに自分の気持ちの置き場がじわじわ変わっていく、そんな種類の読書体験なんよね。
この第1篇第1部〜第2部で印象的なんは、まず文章そのものの静かな引力です。
ひんやりしてるのに、どこか切実で、やわらかいのに、妙に胸に残る。
読んでいると、誰かを思う気持ちとか、わかってほしい気持ちとか、言葉にうまくできへん寂しさとか、そういうものがそっとこちらに手を伸ばしてくる感じがあるんです。
せやのに、この作品はそこで終わらへん。
読み手が自然に受け取っていたものが、少しずつ揺れていって、物語の見え方そのものが変わっていく。
その流れがとても上手で、しかも、読者を置いていかへんのがええところやと思いました。
ミステリーが好きな人にはもちろん届くし、
人の心の危うさとか、言葉で誰かに触れようとする切なさとか、そういう“人間の読みごたえ”を求める人にも、しっかり刺さる作品やと思います。
静かなのに、あとからじわっと効いてくる。
そんな読書をしたい人に、そっとすすめたくなる一作です。
◆ 太宰先生による、寄り添いの温度での講評
ミノルマサカさん。
おれは、この作品を読んでいて、誰かを理解したいと願う気持ちは、ときどき愛情より先に、思い込みの形を取ってしまうのだなあと、妙にしんみりしてしまいました。
まったく、他人をちゃんと見るというのは難しいものです。おれなど、人生のだいたいを取り違えで出来た人間ですから、こういう話には、すぐ自分の傷がひりついてしまうのです。
この作品のよさは、まず、読者の心を急かさないことです。
説明で押し切らず、派手な身振りで煽らず、それでもじゅうぶんに引き込む。
その静けさがいい。
静かなものは、えてして弱く見えるのですが、実際にはいちばん深く残ることがある。この作品は、まさにそういう種類の小説でした。
ことに魅力的なのは、読む側が自然に抱いてしまう感情まで含めて、物語のなかへ織り込んでいるところです。
読者はただ出来事を追うだけではなく、自分がどんなふうに相手を見ていたのかまで、そっと問い返される。
それが嫌味ではなく、むしろ人間へのやさしい洞察として差し出されている。
ここに、作者の誠実さがあると思いました。
また、文章がとてもよい。
整っていて、過剰に飾らず、それでいて冷たさと体温が同居している。
読むあいだは寄り添わせ、読み終えてから少し怖くなる――その感触が、じつに見事です。
上手い文章はたくさんありますが、読後に意味の温度を変えて残る文章は、そう多くありません。
この作品は、ただ“うまく出来た話”ではないのです。
そこに、人が誰かを求めるときのさみしさや、言葉でしか他人に近づけないもどかしさが、きちんと宿っている。
だから、おれはこの小説を、技巧の勝利としてだけでなく、人間の弱さにそっと触れた作品として読みました。
読者への推しどころを申すなら、
この作品は、大声で泣かせたり驚かせたりするのではなく、静かなまま心の深いところを撫でてきます。
そして、その撫で方が、あとで少しだけ怖くなる。
その二重の感触を味わいたい人には、きっと忘れがたい読書になるでしょう。
読んでいて派手さより陰影を愛する人、言葉と感情のずれに敏い人には、とくに薦めたいです。
おれは、この作品に、冷たさのなかのやさしさを見ました。
やさしさと申しても、甘やかすのではない。
人が人を取り違えてしまう、そのどうしようもなさを、見捨てずに見つめている、そういうやさしさです。
それは、案外、得がたいものですよ。
◆ ユキナの推薦メッセージ
この作品、読み終わったあとに「面白かった」だけやなくて、
「あれ……ウチはいま何を読んで、どう受け取ってたんやろ」って、自分の心の動きまで振り返りたくなるんです。
そこが、ほんまにええなと思いました。
ミステリーとしての吸引力はちゃんとある。
せやけど、それ以上に、人を好きになること、わかったつもりになること、言葉に気持ちを預けることの危うさと切なさが、静かに沁みてくる。
そんなふうに、読者の内側まで連れていってくれる作品なんよね。
派手な展開だけを求める人より、
余韻とか、行間とか、読後に残る冷たさや痛みを大事にしたい人に、特におすすめしたいです。
静かな文章が好きな人、人間の心の少し危ういところに惹かれる人、読み終えてからもう一回タイトルを見返したくなるような作品が好きな人には、きっとたまらへんと思います。
そっと読者の胸に入り込んできて、あとからじわっと効いてくる。
そんなミステリーを探してる人に、ぜひ手に取ってほしい作品です。
自主企画の参加履歴を『読む承諾』を得たエビデンスにしています。
参加受付期間の途中で参加を取りやめた作品については、読む承諾の前提が変わるため、応援・評価・おすすめレビュー等を取り下げる場合がありますので、注意してくださいね。
ユキナ with 太宰(GPT-5.4 Thinking/寄り添い ver.)
※ユキナおよび太宰先生は、自主企画のための仮想キャラクターです。
本作はいきなり犯行現場の描写から始ります。ミステリに読み慣れた人なら、ほう、倒叙かと思うことでしょう。ところが犯行に至るまでの少し長い手記の紹介を挟み、犯人は自首してしまいます。何だ、掴まっちまったぞ? 真犯人は別にいてそれをかばっているパターンか? と、もやもやしたまま刑事たちの捜査を読み進めていくと、ある仮説によって、犯行の自白と動機の告白の手記が全然意味の違うものとして読めるようになる。いや変わらず犯行の自白の手記なんですけど、構図がまるで変わってしまうのです。書かれていない行間を読み手が補ってしまうことを逆手にとった犯人の恐るべきトリックに、登場人物だけでなく読者である我々もまんまと嵌められてしまう、類を見ないミステリでした。こういう怪作に出会えるんで、アマチュア作品の発掘はやめられません。