※ 29日目 ゆっくり


「ふ、ん……っ」


「ん、ちゅぅ……」


「沙耶、ちゃ……っ」


「気持ち良いですか? 梓さん」



アタシの問い掛けに梓さんは瞳を潤ませながら不満げに身体をくねらせる。

朝の諸々やハーブのお世話を済ませて、こうして寝室で混じり合ってる訳だけど……どれだけ時間が経っただろうか。

何度も絶頂しては梓さんに負担が掛かると判断して、至極ゆっくりと行為を進めている。

……だからこその抗議と催促なんだろうな。



「沙耶ちゃん、もっとぉ……っ」


「駄目です。ゆっくりとです。ね?」


「いじわるぅ……っ」


「そう言わないで。梓さんの為でもあるんですから」


「うぅ……っ」


「……まぁ体力的に不安なら、今終わらせてもいいですけど」


「沙耶ちゃあん……っ」


「ふふ……」



涙目になりながらアタシを睨んでくる梓さん。

……参ったなぁ。本当に可愛いから甘やかしてあげたい。

何回か散発的に、なら負担も軽いかな?



「キスしますね」


「んん……」

  


いつもの様に押さえ付けて抵抗を封じた上での酸欠させるキス、では無くて。

唇を合わせるだけ、啄むだけの優しいキス。



「ぁ……ん、はぁ……っ」


「好きですよ、梓さん」


「ふぁい……」



ちゅぅちゅぅと吸い合って柔らかな感触を味わい尽くす。

角度を変えながら小鳥みたいに何度も唇を合わせて、合間に甘い言葉を差し込んで。



「好き、好きです。大好きです」


「わ、私もぉ……っ」


「はい……」

 

「沙耶ちゃんの事、だあいすきぃ……っ!」


「嬉しいです」



キスしながら右手で梓さんの腹部を撫でて。

そこから下に伸ばして、触れて。



「ふぁ、あっあっ……うぅ〜……っ」



梓さんの身体が跳ねて、脱力した。



「ん……」



水差しからコップに水を注いで喉を潤す。

それからまた水を注いで口に含んで、息を荒らげている梓さんに口付ける。


少しずつ水を送り込んで。

梓さんがこくこくとそれを飲み込むのを見届けてから唇を離す。



「……ごめんなさい、ちょっと激しくし過ぎましたか?」


「ううん……大丈夫。ね、もっとして?」


「少し休んでからです」


「もう……」



拗ねる梓さんの頭を撫でる。

そうは言っていても、梓さんの体力が少ないのは確かで。

だからアタシの方で適時水分補給や休憩を挟む必要が有る。

特に今日は一日中する予定だし。



「んふ〜……」



頭を撫でられて心地好さそうに目を細める梓さん。

こんな表情を見られたら、もうこのまま寝てしまっても良いと思える。

そんな事したら怒るだろうからしないけど。



「ん、ぺろ……」


「ふ、ぁ……」



体力が回復したのを見計らって、梓さんの鎖骨を舐める。

少し汗の味がした。



「しょっぱいです」


「し、仕方ないでしょー……」


「ええ」



可愛い、と呟いて今度は胸元にキスをする。

大きくて、この細い腰でよく支えられるなと感心してしまう。

頬を寄せると柔らかな感触が返ってくる。

それに体温が心地好くてずっとこうしていたい気分。



「あ……っ」



いや、駄目だ駄目だ。

今日はアタシが動いて梓さんを気持ち良くさせる日なんだから。



「辛くなったら言ってくださいね」


「えぇ」



そうは言っても、また自分の身体より快楽を優先するんだろうなぁ。



◇◇◇◇◇



「お水です」


「ありがとう」



午後9時。

朝の9時から数えて約12時間。

途中で食事や休憩、抱き締め合うだけの時間もあったけど……ずっと触れ合っていた。

……流石に疲れ果てたのか、梓さんはぽやぽやしている。

それでも満ち足りた表情なのは……体力よりも性欲の強さ故なんだろうか。

いや、人の性欲の強さの基準とかは分からないんだけど。



「すみません。やり過ぎましたね」


「ううん、沢山沙耶ちゃんに気持ち良くさせて貰えて嬉しかったわ」


「なら良かったですけど……何処か痛いとかありますか?」


「大丈夫。優しくしてくれたもの」


「もし痛みがあったら明日は……」


「駄目よ。明日は私が責める番でしょう? 色々準備もしてきたんだから」


「何されるんだろう……」


「それは明日になってのお楽しみ、ね?」


「はい……」



取り敢えず拘束はされるんだろうなぁ……



「沙耶ちゃん」


「はい?」


「ぎゅってして?」


「はい」



梓さんは布団の中で腕を広げて。

アタシも布団に潜り込んでその華奢な身体を抱き締める。

まだシャワーも浴びてなくてお互い汗だくだ。

だけど不快感なんて全くなくて。



「ぬるぬるね」


「仕方ないです」


「ふふ。朝になったら一緒にシャワー入りましょうね」


「ですね」


「んふふ。明日はね、沢山可愛がってあげるから。

沢山声を聞かせて? 私だって沢山我慢してきたのよ」


「はい……」



梓さんは笑顔で宣言した。

梓さんは本当に容赦しない人だから、少しの怖さと……大きな期待感。



「いっぱいえっちして、いっぱい愛してあげる」


「が、頑張ります」


「大変な事が待ち受けてるみたいな顔してる」



その通りです、とは流石に口には出さない。



「沙耶ちゃん、好きよ。愛してる」


「アタシもです」


「嬉しい……」



ちゅぅっとアタシの頬にキスして梓さんは微笑んだ。



「明日もずっと一緒ね」


「はい。ずっと一緒です」


「……明後日は、ずっと一緒にはいられないわね」


「朝にはもう出ないといけないので」


「明後日の朝が過ぎたら……沙耶ちゃんはもうこの村に居ないのね」


「……はい」


「……寂しい」


「アタシも寂しいし、悲しいです。ですが……アタシ達の将来の為には必要な事ですから」


「うん、うん……っ」



梓さんはアタシに腕を絡めて、そのままアタシの首筋に顔を埋めた。

梓さんの涙声は聞こえない振りをして、アタシは抱き締める力を強くした。


……あと、ほんの少しだけしか一緒に居られない。

だからこそ、全力で愛し合おう。



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