奔放な笑顔が紡ぐ歴史の異彩

平安末期を舞台にした本作には、物語を深く、そして豊かにしている二つの大きな魅力があります。

まず心を惹かれるのが、ヒロイン・小瑠璃の人間的な魅力。
彼女は自分で自分のことを絶世の美女と言い張る、思わずクスッと笑ってしまうような一面を持っています。
ですがこの物語が本当に描きたいのは、彼女の外見ではなく内面の素晴らしさなのでしょう。
困っている人を見過ごせない優しさや、どんな逆境でも笑い飛ばせる強さには、誰もが惹きつけられます。
幼馴染の九郎との関係も恋愛というよりは互いに支え合う深い絆として描かれており、二人のやり取りを見ているだけでとても温かい気持ちになれます。

そしてもう一つの魅力は、物語のリアリティを支えるしっかりとした歴史考証。
平安末期の荘園といった舞台がごく自然に物語に溶け込んでいて、私たちを無理なくその時代へと誘ってくれます。
特に印象的だったのは、田植えで女性が夫役を務める場面。
史実を徹底的に考証し描写することで、小瑠璃が領民たちと心を通わせていく流れに大きな説得力が生まれます。

魅力的な脇役たちとの交流や、村の未来を考えた政治的な駆け引き、そして化け物との戦いまで、物語は飽きさせることがありません。
これらすべての要素が、見事に一つの物語として繋がっています。
この丁寧に作られた世界の中で、何よりも輝いているのが、主人公・小瑠璃の屈託のない笑顔です。
その明るさに、あなたもぜひ触れてみてください。

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