お前は生け贄だと追放された醜女の姫、どうせ死ぬし~と好きなことをやっていたら愛され人生がスタートしました

ちくわ天。

前編

第一話 生け贄で追放……

「今年の生けにえは、我が清藤家せいとうけから愛娘まなむすめ小瑠璃こるり』を差し出そうと思う。不憫ふびんゆえ、どこぞの家で預かってもらえぬか」


 涙ながらに訴える父の茶番ちゃばんを、私はたたみの上で覚めた目で見つめていました。ただ、ああそうか、という感じでした。上段の間で見ている武家の方たちは、父の申し出に感銘かんめいを受けているように見えます。


 私の住む平鹿郡ひらがぐんには、一年に一度、人をらい、田畑を荒らす化け物が人里へ下りてくるのです。そのため、人身御供ひとみごくうを必ず差し出すことがならわしとなっております。


清藤せいとうどの……まさか、ご息女そくじょを生けにえに。実に見上げた心意気こころいきですな」


「正に武士のかがみ


 上段じょうだんにつめているお武家ぶけさまはみな、感動し思わず下を向いてしまう有様ありさまです。床の間の「八幡大菩薩はちまんだいぼさつ」と書かれた掛け軸が、所在しょざいなさげに揺れています。


 違うんです。この生けにえは、ただの厄介やっかい払いなんです。


 分かっている人は、含み笑いをしていらっしゃるじゃありませんか。私の着物は所々にり切れが目立ち、その上、せているものですから、肩から滑り落ちそうになっています。


 私の父は清藤せいとう義澄よしずみと申しまして、平鹿郡ひらがぐんという大きな領地を治めている豪族ごうぞく頭領とうりょうです。身のたけも四しゃくすん(178cm)と、とても大きゅうございます。肩も盛り上がり、合戦では負けたことがない、というのが口癖くちぐせです。兵士の数も五百人を数え、ご家来衆けらいしゅうもたくさんやとっておられます。


 顔を扇子せんすで隠していた私は、上段じょうだんの様子をうかがっておりましたが……。


 はい……誰も名乗り出る者がおりませんね。生けにえを預かれと言われても、ご家来けらい途方とほうに暮れるだけでしょうに。


「今年の生けにえの順番は、確か南平鹿郡ひらがぐんであったな。千徳せんとくどの、いかがかな?」


 扇子せんすを向けられて、さしもの知将ちしょう千徳せんとく正盛まさもり』さまも困った顔をされております。このような顔が発疹ほっしんだらけの女(おなご)など、連れて帰るだけでも嫌でございましょう。


 それに顔だけでなく、全身が赤い発疹ほっしんくされております。


 律儀りちぎ千徳せんとくどのは、


「はっ。確かに今年は我が領地から生けにえを差し出すことになっております……」


 と答えたまま、難しい顔で腕を組んだままでした。その後ろに、ひときわ大きな体つきの若武者わかむしゃひかえていることに、私は気がつきました。


 父よりも背が高く、背をのばして堂々と胸を張っておられます。顔中がひげだらけのその方は、まるでくまが座っているかのよう。すると、その熊が平伏へいふくし、似つかわしくない優しげな声でこう言われたのです。


小瑠璃こるりさまを、我がやかたにお迎えしたいと思います。この千徳せんとく九郎くろう信賢のぶかた万事ばんじ遺漏いろうなく努めますゆえ」


 それを聞いた我が父は、露骨ろこつ安堵あんどした表情となり、そのくまに申し渡したのです。


「さすがは武勇のほまれ高い九郎くろうどのだ。では、生けにえの件、よしなに頼む」


 そう話すと、すっくと立ち上がり、そそくさと大広間から出ていかれました。一度も、私の方に視線を向けることはありませんでした。こんな、ガリガリにせた、チリチリ頭の醜女しこめ(いわゆるブス)などに、もう用はないのでしょう。

 

 すると、父の隣に座っていた少女が立ち上がり、私の前に歩いてくるではありませんか。その姿を周囲の殿方とのがたはうっとりとした目で見つめております。私の前でぴたりと立ち止まったその美少女こそ、私の腹違いの妹、永子はるこでした。


 歳は四つ違いの十四才でございます。赤や黄色の花柄が綺麗なにしきの着物を着こなし、その秀麗しゅうれいな顔立ちは平鹿郡ひらがぐん一の美女との評判でした。


 私を見下ろすような視線と口調くちょうが、上段の間に響きます。


「姉上。清藤家せいとうけのことは私にお任せください。

 自ら生けにえになるなんて、姉上のことを誇りに思います」


 ニヤリと笑った顔を扇子せんすの後ろに隠し、涙声に聞こえるような声色こわいろを使っておりました。邪悪じゃあくな気持ちを隠し切れていないように感じたけれど、ほかの方々は気付かなかったのでしょうか? 


 私はこの子に意地悪いじわるなんて何もしなかったんですけど……。しかも、妹の永子はるこはさらに私のそばに寄り、耳元でこうつぶやいたのです。


「引き取っていくのが貧乏千徳せんとく家ってのが笑える。

 しかも、あんたを連れて行くって言ったのがあの熊でしょ! 姉上、かわいそう。

 それにしても、そのあぶらっ気のないごわごわの髪の毛……。みにくいわあ」


 そう言うと、さらに小さな声で、


「せいぜい、死んで役目を果たしてね。この裏切り者の一族が!」


 と話すと、私に背をむけて離れていきました。


 もうすぐ大広間おおひろまから出て行こうとした瞬間、妹の永子はるこがぴたりと立ち止まって振り向くと目から涙が流れておりました。そして、周囲に聞こえるように、


「姉上、永子はるこは……永子はるこは、姉上のことを忘れません」


 と涙を拭いながら、きびすを返して大広間から去って行くのでした。


 それに続くように、上段の間にひかえていた武将たちも、一人また一人と立ち上がりました。ようやく終わったとばかりに安堵あんどした表情を浮かべながら、一瞬だけ私をちらっと眺めると、慌てたように大広間を出て行くのです。


 誰も私に声をかけることはなく、むしろ、少し距離を取って歩いて行かれるのです。私の顔を見て、発疹ほっしんがうつると思ったのでしょう。多少足早になるのも無理はございません。


 小さな声で「本当に気味が悪い」「ガリガリで女には見えんな」など、話されるのが耳に入ります。それに「この裏切り者が!」と吐き捨てるように話される方もいらっしゃいました。でも母も私も、裏切ってなどおりませぬ! 


 ぴしゃりとふすまが閉められ、大広間には私と千徳家せんとくけの四名が残されておりました。音も立てずに、私の前に立つのを見て、


「どうぞ、よろしくお願いいたします」


 と、床に手をついてお礼を述べます。もし、誰も預からないと言われていたら、私はどうなっていたことでしょう。


 けれども、三人の方々は何も言わずに大広間を出て行かれたのです。一人残ったのはあの熊男の九郎くろうさまでした。九郎くろうさまは千徳家せんとくけ三男さんなんにあたるお方です。

 

「では、小瑠璃こるりさま。私と一緒に」


 と、短く話すだけで出て行こうとします。慌てて私は立ち上がり、九郎くろうさまの後を追いました。あまり食べていないものですから、息が切れてしまいます。きっと、千徳家せんとくけでももの扱いになるのが目に見えるようです。


 だって、母様が殺されてから、私が誰かに愛された事なんて一度もなかったのですもの。


 ―――――

 

 女の子が主人公の物語に挑戦しています。

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