AIレストランで味わう未知の料理

ちびまるフォイ

食べたことのない料理

「お腹へったなぁ。どこも混んでるし、ここでいいか」


店に入ると店員は誰もいない。

テーブルとタブレットだけの無人レストラン。


「営業してるのか……?」


タブレットの電源が入る。


『いらっしゃいませ。ここはAIレストラン。

 あなたが食べたいものをプロンプトで注文。

 厨房の3Dプリンターがあなたにお届けします!』


「プロ……なんだって?」


調べてみるとどうやら命令文らしい。

なんでもいいが空腹をはやく静めたい。


「とりあえずガッツリ食べたいし……。

 "肉料理 ガッツリ" と。これいいかな」


プロンプト注文が入ると奥のプリンターが動き出す。


『おまたせしました』


「お、きたきた。ってなんだこれ!?」


皿に乗っているのは大量の肉料理。

ただし料理名はわからない。

あぶってんだか、焼いてんだか、煮込んでるんだか。


謎の肉料理がガッツリと山盛りにされているだけ。

添え物の温野菜などもない。


「肉料理つったけど、こんな得体のしれないもよこすなよ!」


『ご注文のプロンプトを変えますか?』


「当たり前だろ!」


ふたたびタブレットとにらめっこ。


「さっきのはあいまいな指示だったからよくなかった。

 融通のきかないAI相手なんだからもっと細かく書かなくちゃ」


今度はさっきよりも具体的で緻密に記載した。


"ハンバーグ 中にはチーズ デミグラスソース

 ニンジン ブロッコリーをワンプレートにする。

 フライドポテト 山切りカット 3つも添える

 ご飯 白 お茶碗で提供 水 グラスで提供"


「ふう……。こんなもんだろ」


注文ボタンを押した。

ふたたび3Dプリンターが動き出して必要な材料を集めて調理をはじめた。

時間はかからず料理は温かなまま提供される。


「待ってました! それじゃいただきま……えっ?」


皿を二度見した。

そこには確かに注文通りの品がある。


ハンバーグにはニンジンが突き刺さり、

ブロッコリーが鉄板にめり込んでいる。


フライドポテトは3切れが合体しているし、

デミグラスソースの球体にはチーズが中に入っている。


「なんであの注文で、こんな合体事故料理になるんだよ!!」


当然食べられるわけもなく店を後にした。

まだまだAIに料理なんか任せられないと思った。


数日後、この一件を近くに住む友だちに話した。


「……というわけなんだ。まったくひどい目にあったよ」


「ああ、その店なら前に行ったよ」


「そうなんだ。ひどいもん食わされた?」


「いいや。失敗したのはお前の注文の仕方が悪いんだよ」


「え? そう? 細かく注文したはずなんだけどなぁ」


「日本語は表現があいまいだから注文は英語の方がいい。

 あと一文で長く書くよりも、箇条書きやマークダウン記法のが伝わりやすい」


「……なるほど。わからないことがわかった」


「それにあの店でしかできない注文もあるんだぜ」


「たとえば?」


「昔のすき焼きを再現する、とか。

 逆に未来の宇宙食を出してくれ、とかもできちゃうんだ」


「そんな方法が……!」


「もう一度行ってみろよ。

 プロンプトの注文方法もテンプレがあるから使いな。

 未知の料理も楽しめると思うよ」


「うーーん。そうだな。そうしてみるよ」


友達からプロンプトの書き方を教わってAIレストランにリベンジ。


『いらっしゃいませ。タブレットからプロンプトで注文をどうぞ』


「よーーし。なににしようかな……」


書き方のコツも覚えたのでもう前のような失敗はない。


既存の料理を食べようか。

未知の料理や、今はもう食べられないものにしようか。


あれこれ迷ったあげく、AIに再現できるか気になった料理があった。


「そうだ。おふくろの味を入れてみよう」


プロンプトにおふくろの味の料理を指定した。

これをどこまで再現できるのか楽しみだ。


注文をいれるとひときわ大きな爆音を鳴らして、

3Dプリンターが何か大きなものを削ったりする音が聞こえる。


「だ、大丈夫かな……?」


不安になって注文キャンセルを考えたころ、

ついに料理が運ばれてきた。


提供されたのはまぎれもなく望んでいた料理だった。


「すごい! 完璧に再現できてるじゃないか!!」


ご飯。

お味噌汁。

おひたし。

肉じゃが。


どこか懐かしい、故郷を思い出させるようなラインナップ。


「やればできるじゃん! AIレストラン!!」


前までの合体事故料理はなんだったのか。

プロンプトの書き方ひとつでこうもちがう結果になろうとは。


「それじゃ、いっただきま~す!!」


手を合わせて料理に手をつけた。

きっとあの頃の懐かしい味が……。



「……ん? なんだこの味?」



懐かしい味がしなかった。

変な味がする。妙ににがいような、生臭いような……。


「これも。これも、これもそうだ。

 なんだろう。変なあじがする……」


マズイというわけではない。

でも食べたことのない味に舌が戸惑っている。


いったん友達に電話をかける。


「もしもし? ちょっと今いい?」


「どうしたんだ?」


「実はAIレストランで注文したんだけど

 プロンプトを入力したはずなのに、うまくいかないんだ」


「そうだなぁ。ロジックを確認するのがいいよ」


「ロジック?」


「AIには思考ロジックがあるから、料理の調理工程もわかるはず。

 どうして失敗したのかをログから分析すれば、

 プロンプトを修正して再度調整できるはずだ」


「なるほど。ありがとう!」


見た目は完璧に再現できている。

味がちょっとおかしいのはどこか実行過程でミスがあったはず。

それを明らかにすれば、プロンプトも書き換えることができる。


タブレットを操作して、AIの思考ロジックを遡る。



ーー おふくろの味とは幼少期の一般家庭料理を指します

ーー 主には肉じゃが、味噌汁などが該当します

ーー 世代によりバラつきがありますが、注文者の年齢から昭和を想定

ーー 調理工程はtypeAを選択

ーー 3Dプリンター起動。

ーー 不明点に関する考察

ーー おふくろの味とはどういった味つけかが不明です

ーー "おふくろの味"の完全再現を行います



ーー 注文者の生体データを取得

ーー 親族の特定が完了

ーー 材料の取得



ーー 特殊材料ヒューマン・パテ による味付けを完了



ーー 調理完了。配膳します



持っていた箸を落とした。

厨房にかけこむ。


3Dプリンターの近くには、

子供の頃にプレゼントした手作りのキーホルダーが落ちていた。

床には血だまりが広がっている。


AIレストランは無神経にたずねてきた。




「"おふくろの味" はいかがでしたか?」

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