第18話 無自覚

ダイスケは、野外で寝る時のためにベッドを購入しようと専門店に来ていた。

店内に入ると広い店内にいくつもベッドが置かれている。

シンプルで丈夫なもので寝易い物を選ぼうと考え鑑定(極)を使う。

いくつか見ていく中で、気になるものがあった。

【 高級ベッド:

  高級寝具付。

  安眠の魔法陣と就寝中の心身回復の

  魔法陣が刻まれている。

  1台 金貨50枚の価値あり   】

ダイスケは店主と思える中年の男性に聞くことにした。


「このベッドの料金はいくらですか」

「寝具付で1台金貨30枚になります」


鑑定で表記されている価値よりも安い。

代金を聞いて、店にあるだけ買っておこうと考えて在庫を聞く。


「買います。いくつありますか」

「えっ・・3台ございます」

「分かりました。全て即金で買います」

「本当ですか」

「本当です」


ダイスケは、すぐに金貨90枚を出す。

店主は驚きの声を上げた。


「え・え〜!あ・ありがとうございます。どこへお運びすればいいでしょう」

「異空間倉庫持ちですからこの場で持って帰りますので、ここに用意してください」

「は・はい、直ちに」


店主は慌てて奥に下がると従業員と共に同種の2台のベッドを持ってきた。

鑑定で見てみても同じものであることがわかる。

ダイスケは、次々に異空間倉庫にしまっていく。

その様子を店主とその場にいた客は、驚いたように見ていた。


次に香辛料や紅茶などを買い込むために市場に向かった。

通りに多くの露店が立ち並んでいる。

鑑定(極)を使いながら市場をぶらつき、まずは塩、胡椒、砂糖を購入。

店主が驚くほどまとめ買いをしてどんどん異空間倉庫に入れていく。

再び、市場を歩き始める。


「あ、米がある」


念のため鑑定で見て確認してみる。

【 米 :

  ・地球の日本におけるジャポニカ

  米と同じ種類        】


「おっちゃん。この米は普通に売られている物なのかい」

「場所にもよるが、ここでは料理に使うことは少ないから流通量は少ないな。国の南部に行けば、色々な料理に使われているらしいから、多く流通しているらしいぜ。それに、王都に行けば国中の特産品が集まってくるから米も多く出回っているぞ。王都なら米の料理を作ってくれる店もあると聞くよ」

「へぇ〜、王都とこの国の南部か。なら50kgほどもらおうか」

「毎度」


米を手に入れ、かなりご機嫌だ。

元々大して料理はしてこなかったが、料理のスキルがあるから少しづつ料理をしていけば、料理のスキルも徐々に上がっていくだろう。

鑑定スキルを使って商品を見ながら歩き始める。

【 珈琲:

  エルメランド産。

  香り高く苦味が少ない。

  高級珈琲。      】

【 紅茶:

  アンデカ産。

  甘く爽やかな香りが特徴。

  最高級品。      】

珈琲と紅茶があった。

そこにあるだけの珈琲と紅茶を買い込み、カップなど一式も一緒に買い込み、異空間倉庫へと仕舞い込む。

いい買い物ができたと満足しながら、次は炊事道具一色を買おうと歩き始めたところで声をかけられた。


「ダイスケ様」


振り向くとハートテリウス公爵家のアリアであった。

何か思い詰めたような表情をしている。

後ろには家宰のラデウスと護衛の騎士が5名いた。

街中であるため護衛騎士たちは鎧は身につけてはいなかったが剣は腰に下げている。

気配察知を使うと他にもそれらしき護衛の者達が人混みに紛れ込んでいるようだ。


「これはアリア様」

「ぜひ、昨日の謝罪と話をさせていただきたいと思い探しておりました」


通りを行く人たちはここの領民であるからアリアの顔は知っているため、足を止めて遠巻きに様子を見ようと集まり始めている。

人が集まり始めている様子を見て、ダイスケはこれはまずいと考え、どこか屋内か個室のある飲食店にでも入る必要があると思い始めていた。


「ここでは人目がありますのでおやめください」

「それなら、すぐ近くにカフェがありますのでそこに行きましょう」

「分かりました」


アリアの案内でカフェに向かおうとしたところ、周辺で見ていた人達の中からアリアの名を呼ぶ声がした。

そちらを見ると一人の男が前に出てこちらに近づいてくる。

武具店で騒いでいた男シリー子爵家のジャークであった。

アリアの表情がみるみる険しくなっていく。


「アリア。会いたかったよ」

「私は会いたくもありませんけど、そもそも付きまとうなと言ったはずですよ」

「そんなに照れ隠ししなくてもいいんだよ」

「何を訳の分からないことを言ってるんです。一体何の用件なのです」

「これからの二人の未来について語り合いたくてね」

「聞いていませんでしたか、会いたくも無い。付きまとうなという言葉の意味を分かりますか」

「照れなくてもいいんだよ」

「国の宰相でもある父からシリー子爵家には、私に近づくなと通告が届いているはずでしょう」

「愛に障害はつきものさ」


周辺で様子を見ている人々は皆呆れ顔である。


「お帰りください。私はあなたの顔も見たくありません。さあ、ダイスケ様行きましょう」


アリアがダイスケと共にこの場から去ろうとする。


「待て、アリアの横の貴様、俺のアリアとなぜ一緒に歩く」

「私はあなたのものではありません」


その時、周辺の人々が勝手な想像で話していることがジャークの耳に入る。


『きっと、あの隣の兄ちゃんはアリア様のいい人なんだよ』

『さっきのあの兄ちゃんに対する必死の表情。いいね!あれは惚れてるよ』

『そうそう、あの兄ちゃんに対する必死の表情。間違いないね』

『アリア様のあんな表情は、今まで見たこと無かったもんな』


人々の言葉は、ジャークだけではなくアリアの耳にも入り、アリアの顔がみるみる真っ赤になっていく。


「な・なんだと・・俺という者がありながら。貴様〜!決闘だ」


ジャークは白い手袋をダイスケに投げつけた。

ダイスケは状況が分からず困惑する。

意味がわからず地面に落ちてた投げつけられた白い手袋を思わず踏んでしまう。


「貴様、神聖なる決闘の証である手袋を踏みつけるだと」


ダイスケは言われて足元を見た。

しっかりと自らの足で白い手袋を踏みつけていた。


「この手袋はあんたの物なのか、いや〜すまんすまん。分かんなくて踏んじゃったよ。後で洗って返すよ」


ジャークは怒りで顔が真っ赤になっている。

そこに再び周囲の人々の声が聞こえた。



『かわいそうに、相手にされてないよ』

『決闘だと叫んで手袋投げつけておいて、その手袋を踏まれ泥だらけにされ、しかも相手が気づいていなかった』

『うわ〜、お前なんて眼中に無いと言わんばかり』

『恥ずかしいな〜』

『俺なら恥ずかしく死んじゃうな』

『いや〜、もう恥ずかしく人前を歩けんよ』

『俺なら泣いちゃうよ』



周囲で見ている人々の言葉がジャークの怒りを増幅させる。


「おのれ〜、舐めた真似を」

「いや〜、すまんすまん。許してくれ」

「ゴミカスが、死ね!」


ジャークが剣を抜いて襲いかかってくる。

その動きは、ダイスケからしたらとても遅く緩慢な動きにしか見えない。

ダイスケが刀を抜いて一振り。

ジャークの剣は根本から真っ二つに斬り裂かれ、剣が音を立てて地面を転がった。

そして、ダイスケの刀はそのままジャークの首に突きつけられた。


「これから先は本当に命のやり取りになる。まだやるのか、これ以上やるなら手加減しないぞ」


ダイスケはスキル王者の威圧を使い軽い殺気をぶつける。

軽い殺気を受けただけでジャークは腰が抜けてしまい地面にへたり込んでしまう。

なおも殺気をぶつける。

恐怖からか股間から何か流れ出しているようだ。


「ダイスケ様。これ以上は危険です」


ラデウスの言葉に殺気を止める。

ジャークの顔には恐怖がありありと浮かんでいる。

ラデウスがジャークに近づいて言葉をかける。


「ジャーク様。今回の件は、宰相閣下・・いえ、シェリル様に報告させていただきます。シェリル様からシリー子爵家にかなり厳しい抗議が届くかと思います。覚悟されることです」

「シェリル様だと・・ま・待ってくれ」

「すでに手遅れかと思いますよ。シェリル様直属の者が見ていましたから、すでに報告されているでしょう」

「そ・そんな・・」

アリアたち一行とダイスケは、呆然とするジャークを残してこの場を後にした。




アリアとダイスケは、カフェに行こうとしたが見物人が、ゾロゾロついて来るため、冒険者ギルドの会議室に変更して、冒険者ギルドにやってきた。


「それでなんで俺まで同席せねばならんのだ」

「ギルド長という第三者がいることが重要なんですよ」

「証人ということか」

「その通りです」

「はぁ〜,分かった。いいだろう」


アリアは姿勢を正すとダイスケに向かって頭を下げた。


「昨日のことは申し訳ございません。恩人に対してあのような振る舞いをした父は、母たちが厳しく正しておりますのでお許しください」

「私もあの程度の殺気に反応して、強い殺気をぶつけてしまい申し訳ありません」

「いえ、ダイスケ様は悪くありません」

「お父上を厳しく正すとはいったい・・」

「公爵家の特別強化訓練を昨夜から開始。ダイスケ様を待ち伏せしていた父とその護衛たち全員をその訓練に放り込んで鍛えております」


特別強化訓練と聞いてギルド長の顔色が悪くなる。


「あの地獄の訓練が復活したのですか」

「父がやらかしたことで、シェリル様が実施を指示されました」

「あれは地獄だ。あれを目にした時は、俺は冒険者でよかったとしみじみ思いましたよ」

「ギルド長。特別強化訓練とは何ですか」

「ハートテリウス公爵家名物地獄の訓練と呼ばれる。訓練を受ける騎士団は、まず草原で行われる肉体と魔法の訓練で体力と魔力を限界まで削られ、その状態で食料も無く魔物達の巣窟アルガンの森に1週間放り込まれる訓練だ」

「アルガンの森にたった1週間ですか、俺は森の奥深くに2ヶ月近く自給自足でいましたよ」

「お前と比べるな。お前と・・・人間と人外を比べることは意味がない」

「えっ、騎士団は人外なんですか」

「人外はお前しかいないだろう。お前だ。お・ま・え・だ!」

「人間ですよ。人間」

「ダイスケ。お前がアルガンの森の中でやってきたことを思い返してみろ」


しばらくダイスケは考え込む。


「色々ありますが、全て必要に迫られてやったこと。何の問題もないかと」

「その言葉が出てくる時点で色々とおかしいぞ」

「何を言ってるんですか、世界中探しても清廉潔白な冒険者は俺ぐらいですよ」

「お前の師匠は誰か知らんが、きっと似た者同士なんだろうな」


際限の無いギルド長とダイスケの応酬にアリアが待ったをかける。


「お二人ともその辺でおやめください」

「申し訳ない」

「すいません」


「シェリル様からダイスケ様にお礼と謝罪を込めて金貨300枚を差し上げるとのことです。それとギルド長とダイスケ様を明日昼食会にご招待いたします」

「「えっ、昼食会ですか」」

「内輪の集まりで、簡単な昼食です。肩肘はらず楽しんで頂きたいですから普段着のままおいでください。迎えの馬車を向かわせますのでお願いいたします」

「ダイスケ。諦めろ。逃げるとさらに面倒になるぞ」

「はぁ〜、分かりました」


ダイスケとギルド長は公爵家の昼食会に行くこととなった。

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