第58話「三人の絆」
一月の第二週、桜川町に雪が舞い散る土曜日の午後、三人は
青山家の離れにある小瑠璃の部屋は、いつものように上品で温かい雰囲気に満ちている。畳の上に座布団を置いて、三人は火鉢を囲みながら静かに話していた。
「この九ヶ月を振り返ると」
小瑠璃がお茶を注ぎながら言った。
「わたくしたちの関係は、本当に深くなりましたわね」
「そうね」
「最初は、みずきちゃんの秘密から始まったけれど」
「今では、それ以上の絆で結ばれている感じがします」
みずきが微笑んだ。
確かに、三人の関係は大きく変化していた。最初は万年筆の秘密を中心とした関係だったが、今では互いの人格を深く理解し合う、真の友情に発展している。
でも、卒業を控えた今、三人にはそれぞれ不安もあった。
「ねえ、二人とも」
みずきが少し真剣な表情で言った。
「卒業後のことを考えると、少し心配になりませんか?」
「どんなこと?」
小瑠璃が聞いた。
「わたしは中学校に進学して、二人はそれぞれお仕事を始める」
みずきが説明した。
「環境が全然違ってしまうのに、本当に友情を続けていけるでしょうか」
恵奈が少し考えてから答えた。
「確かに、心配がないわけではないわ」
「でも」
小瑠璃が優しく微笑んだ。
「わたくしたちの友情は、もうそんなことでは揺らがないと思いますわ」
「どうして?」
みずきが聞いた。
「この九ヶ月間で、わたくしたちはたくさんの困難を一緒に乗り越えてきました」
小瑠璃が説明した。
「夏祭りの準備、学芸会の成功、それぞれの悩みの解決。どれも、三人の力があったからこそできたことです」
「そうね」
恵奈も同意した。
「わたしたちの絆は、もう表面的なものではないわ」
みずきは二人の言葉に勇気づけられた。確かに、三人で過ごした時間は、単なる楽しい思い出以上のものだった。
「でも」
みずきが続けた。
「それぞれの新しい環境で、新しい友達ができたらどうでしょう」
「新しい友達?」
恵奈が聞き返した。
「わたしは中学校で、きっと新しい友達ができるでしょう」
みずきが説明した。
「その時、二人との関係が薄くなってしまわないか心配なんです」
小瑠璃が少し考えてから答えた。
「みずきさん、友情は足し算だと思いませんか?」
「足し算?」
「新しい友達ができても、古い友達との関係が減るわけではありません」
小瑠璃が優雅に説明した。
「むしろ、新しい経験を通じて、わたくしたちとの友情もより豊かになるのではないでしょうか」
恵奈も頷いた。
「そうよ。わたしも、お店で新しい人たちと出会うでしょう」
「でも、その経験を二人に話すことで、わたしたちの絆はもっと深くなるはず」
みずきは二人の言葉に深く感動した。友情は独占するものではなく、分かち合うものなのだ。
「それに」
恵奈がふと言った。
「わたしたちには、他の人には分からない特別な思い出があるもの」
「万年筆のこと?」
みずきが聞いた。
「それもそうだけれど、それだけじゃないわ」
恵奈が微笑んだ。
「三人で一緒に成長してきた経験。お互いの悩みを理解し合えた時間。そういうものは、他の誰とも共有できない特別なものよ」
小瑠璃も同感だった。
「わたくしたちは、お互いの本当の姿を知っています」
「喜びも悲しみも、すべて分かち合ってきました」
「そのような関係は、そう簡単に変わるものではありませんわ」
みずきは三人の友情について、改めて深く考えてみた。
信頼:互いの秘密を守り、困った時には必ず助けてくれるという確信。
理解:言葉に出さなくても、相手の気持ちや考えが分かる深いつながり。
成長:一緒にいることで、それぞれがより良い自分になれること。
協力:目標に向かって、自然に力を合わせることができること。
支え合い:喜びは分かち合い、悲しみは慰め合える関係。
そして何より、受容:お互いのありのままを受け入れ、愛することができる関係。
「そうですね」
みずきが安心したように言った。
「わたしたちの友情は、もう何があっても変わらないものになっているのですね」
「もちろんですわ」
小瑠璃が美しく微笑んだ。
その時、小瑠璃が立ち上がって、美しい包みを持ってきた。
「実は、二人にお渡ししたいものがありますの」
包みを開けると、中には美しい刺繍が施された小さな袋が三つ入っていた。
「まあ、美しい」
みずきが感嘆した。
「いつ作ったの?」
恵奈が驚いた。
「年末から新年にかけて、密かに作っておりました」
小瑠璃が説明した。
「三人の友情の記念にと思いまして」
袋にはそれぞれ異なる花の刺繍が施されている。みずきの袋には桜、恵奈の袋には菊、小瑠璃の袋には
「それぞれの花言葉を調べて選びました」
小瑠璃が説明した。
「桜は『精神の美』、菊は『高貴』、椿は『控えめな優しさ』」
「ありがとう、小瑠璃ちゃん」
みずきが感動して言った。
「大切にします」
恵奈も深く感謝した。
「でも、わたしたちも何か用意すれば良かった」
「いえいえ」
小瑠璃が首を振った。
「二人の友情そのものが、わたくしへの最高の贈り物ですもの」
みずきは自分の桜の袋を大切に手に取った。
「この袋に、万年筆を入れて持ち歩きます」
「素敵なアイデアね」
恵奈が賛成した。
「わたしも大切に使わせてもらうわ」
その時、小瑠璃が少し真剣な表情になった。
「お二人に、お約束したいことがありますの」
「何?」
みずきが聞いた。
「わたくしたちは、卒業後それぞれ違う道を歩みます」
小瑠璃が説明した。
「でも、この友情を永遠に保つために、約束を交わしませんか」
「どのようなこと?」
みずきが聞いた。
「たとえ離れ離れになっても、定期的に手紙を書き合いましょう」
小瑠璃が提案した。
「そして、年に一度は必ず会いましょう」
「それは素晴らしいアイデアですわ」
恵奈がすぐに賛成した。
「わたしも絶対に守るわ」
「わたしもです」
みずきも力強く頷いた。
「約束ですね」
三人は手を重ね合った。小さな手が三つ、温かく重なり合う。
「この絆は、永遠に続きます」
小瑠璃が約束するように言った。
「はい」
みずきと恵奈が声を揃えて答えた。
夕方、みずきが帰る時、小瑠璃と恵奈が見送ってくれた。
「今日は、とても大切な時間でしたね」
小瑠璃が微笑んだ。
「友情について、改めて深く考えることができました」
「わたしたちの絆は、本当に特別なものね」
恵奈が言った。
「これからも、ずっと大切にしていきましょう」
家に帰って、みずきは小瑠璃からもらった袋に万年筆を入れてみた。袋の桜の
万年筆を袋から取り出して、今日の感想を書いた。
『今日、三人の絆について深く話し合った。わたしたちの友情は、もう何があっても変わらない確固たるものになっている。
卒業後それぞれ違う道を歩むことへの不安もありましたが、それは
小瑠璃ちゃんからいただいた刺繍袋は、三人の絆の象徴です。この袋に万年筆を入れて持ち歩くことで、いつでも二人との友情を感じることができます。
卒業まで残り二ヶ月。この貴重な時間を、三人でもっと大切に過ごしたいと思います。
そして、卒業後も、この友情を一生大切にしていきます。』
文字を書き終えると、万年筆がいつもより温かく感じられた。まるで、三人の友情を祝福してくれているかのように。
窓の外では、雪がちらちらと舞い続けている。
静寂の中で、みずきは三人の絆の深さを改めて実感していた。
この友情は、きっと一生続くものだろう。どんなことがあっても、三人の心は一つのままでいられる。
そう確信して、みずきは静かな冬の夜を迎えた。
万年筆を大切に刺繍袋にしまいながら、三人の永遠の絆への感謝を込めて。
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