第32話 異世界からの転校生
「すいません、東京新聞の佐々木です。異世界というのは例えば異星人などと具体的にどう違うのでしょうか?」
「この世界から異世界に繋がるゲートというのはどのような仕組みなのでしょうか?」
会見では異世界についての質問がひっきりなしに飛ぶ。元々時間は決まっていたので1時間程度答えて会見は幕を閉じた。
テレビやネットは早速大盛り上がりだ。民放各社も放送予定を変更してこの異世界についての特別番組を編成した。
ネットではこれだけ懇切丁寧に異世界に説明したのにも関わらず、相変わらず根も葉もない噂話が拡散され続けている。
このことを携帯を見ていなかった橘は知る由もなかった。
ちょうどこの時間、昨日久しぶりにゲームをやったことでゲーム熱が刺激されて小学校の時にやっていたゲームを引っ張り出して遊んでいたのだ。
そして今朝学校に着いてからこのことを知った。
昨日の会見後、臨時対策委員会の意見は害なしということになった。
むしろ未知のエネルギー資源や加工技術など様々な可能性に満ち溢れた異世界を有効活用しようという意見が多かった。
そのためにまずは留学のような形でエリスに日本文化やこちらの世界のことを学んでもらい、ある種の親善大使のような役割を果たしてもらう。
そしてもう一つ裏で国家間で外交交渉をして異世界との取引を探る。こうした結論に至った。
そして言うまでもなく諸外国のスパイは情報収集のために日本で暗躍を始めるのだった。
そんな大人の事情はつゆ知らず、急に異世界から転校してきたエリス、そして先日のヒーローで魔法使いとして認知された橘と七瀬に全校生徒が殺到した。
「ねぇねぇ、この前の氷の柱が出てくるやつ後でやってよ!」
「異世界ってどんなところなの?」
「他にどんなことができるの?」
っと話題の中心である3人が同じクラスということで3組の人口密度は限界突破。1限目が始まるまでこの混乱は収まらなかった。
この日は常に休み時間になれば人が押し寄せる異常事態だった。そのことを考えてくれたのか、4限の数学の先生は、授業が終わる5分前に特別に3人を教室の外に逃してくれた。
橘と七瀬は普段お弁当でお昼を済ませるので学食に行くことはない。よって身を隠してお昼休憩を過ごせるのだ。
「ここなら誰も来ないだろ」
授業が終わるまでの5分間で人目のつかない倉庫裏に移動してきた。
ジメジメしていて、下を見れば草とダンゴムシが居るような場所である。
若干座るのも憚られるか背に腹は代えれぬということで座り込む。
「そういえば、エリスのお昼どうしよう」
不意に橘は思ったことを呟く。すると七瀬はやけに大きな風呂敷を取り出して
「ジャジャーン!こんなことになろうかと3人分作ってきました!」
と大きなお弁当箱を目の前に差し出す。
「流石!ってかよく予測できたな」
「今朝名村さんから連絡あったんだよ。エリスを転校させるって」
「え、そうだったんだ」
「橘くんにも何度も連絡したけど連絡つかないーって言ってたよ。私も部屋のインターホン鳴らしたけど出てこないし」
「ごめん昨日はゲームして寝てた」
「全く」
七瀬はため息を吐きながら弁当の蓋を開く。中には美味しそうな卵焼きやソーセージ、そしてトンカツから野菜まで様々な物が詰まっていた。
「美味しそうですね!」
そう発言したエリスを不意に見ると、自分たちの学校に身を包んでいる。当たり前なのだが、異世界にいる女の子のイメージが強かったので頭の中でどこか違和感を覚える。
エリスもこうして制服を着ていれば普通の女子高校生だ。と言っても今日の1〜4限は全て寝ていたのだが。
「エリス今日ずっと寝てたのにお腹空いてるの?」
「ペコペコですよ〜私も好きで寝てたわけじゃないので」
「寝不足?」
「はい。昨日あれから手続きを色々してたら、朝になってて寝ずに学校に来たんですよ」
「え、そうだったんだ」
てっきりこっちの世界の勉強が難しくて見たいな理由で寝ていたと思っていた橘はそのことを聞いて自分を律する。
「橘くんも今日は2限ぐっすりだったよね」
「科学の時間って眠くなるんだよね。先生の口調も一定だし」
「あ〜分かる〜ってかクラスの半分は寝てるよねあの時間」
そんなこんなで気がつけば普通の高校生らしい会話に戻る。
そうこうしているとあっという間に予鈴の音楽が鳴り始める。
「ヤッベ!もうこんな時間かよ」
「急いで戻りましょう」
この予鈴というシステムを知らないエリスは終始ポカンとしていたが、なんとなくで2人に着いて行って教室に戻るのだった。
教室に戻る道中ですら多くの生徒に注目される。
中にはこっそり写真を撮る者も居たのだが、居合わせた先生にスマホを没収されていた。
「そういえば今日お二人は異世界に来る日でしたよね?」
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