第11話 意外と世間は狭いものである
「美味しそう〜!」
っと声と共にパシャパシャと数枚写真を撮る音が聞こえてくる。
じゃあ
「「いただきます」」
人生初の女の子とのランチデート(仮)の開幕だ。橘はハンバーグをいつもなら縦に4等分して食べるのだが、口元にソースがつくことを考慮して今日は5等分にする。
他にもナポリタンは啜らない。フォークで巻いて食べる。咀嚼音を極力減らすなど普段はしないマナーに最大限気を遣っていた。
そんな橘の見えない努力とは裏腹に七瀬は至って自然体で食事を楽しんでいた。
「ところでさ、この後時間あったらあっちの世界行かない?エリス心配してるかもだし」
「あ〜そうだね。七瀬さん、魔法お願いできる?」
「うん!ってか橘くん戦闘系だから私が居ないと連れて行けないもんね」
っと他の人が聞いたら厨二病なのかゲームの話なのか、ともかく変な話を至って真面目な顔で行う。
「「ごちそうさまでした」」
その後は地元トークに華を咲かせながら二人とも完食した。橘は俗にいう蛙化現象にならないようにライスの米粒を最後の1粒までしっかりと食べたからか、お皿が光って見える。
その後はもはや熟年カップルのように慣れた雰囲気で再び七瀬の家に戻り、魔法を使い異世界へと行くのだった。
転移先は橘が倒れて目を覚ました時に七瀬が助けてくれた部屋と一緒だった。
「七瀬さん、ここってなんの部屋?」
「ここ?私の部屋だよ〜」
「え、異世界でも部屋借りてるの?」
「借りてるっていうか一軒家!エリスからこっちでの活動用にって貸してもらってるんだ〜」
「俺そんな高待遇受けてないんだけど!?」
異世界部屋付き魔法付き。そんな高待遇を受けてみたかったと橘は僻む。
「言えば貸してくれるかも・・・?それよりエリスに会いに行こう」
そう言って扉を開けると見覚えのある異世界の街並みが広がっていた。
まるでどこでもドアで他の国に一瞬でワープしてきたような、そんな感覚を覚える。
2回でも慣れない異世界だが、七瀬は慣れた足取りでどこかへと向かっていく。橘はその後を必死に着いていくのだった。
「七瀬さんは、こっちの世界に来て結構長いの?」
「ううん、私も1ヶ月前ぐらいに来たって感じ。正直道もうる覚えなんだよね〜」
「今はどこに向かってるの?」
「お城」
「お城って、後ろにあるやつとは違うの?」
「あ・・・」
「え・・・」
どうやら慣れた足取りだと思っていたが、盛大に道を間違えてしまっていたらしい。
「えっと〜うん。ごめん」
「別に謝るほどでも」
そう言いながら絶妙な空気感で来た道を戻っていくのだった。
城と言っても、実際に見るとかなりの違和感を覚える。橘はこれまで夢の国の城しか見た事が無かった。しかしそれよりはるかに大きな城が目の前に聳え立っているのだ。
「相変わらずデッカいよね〜」
同郷出身田舎者2人、どうやら考えていることは一緒のようだ。
改めて見る本物のお城の雰囲気や大きさに圧巻されていると、見覚えのあるシルエットが見覚えのない形で近づいてくる
「え、エリス?」
声を上げたのは七瀬だった。そのシルエットは見覚えのある髪型、髪色なのだが顔をマスクのような布で覆っており、顔がほぼ判別不可能だったが、歩き方など細かい仕草がエリスだったのだ。
「あ、由衣さん!それに橘さんも!無事だったのですね!?」
俺を見つけるや否やこちらに駆け寄ってきて手を掴み上下に大きく振られる。
その力で顔が上下にぶるんぶるんと揺れる。
「で、あんたはどーしてそんな格好してるわけ?」
エリスの手がビタッと止まる。
「じ、実はまた危険ダンジョンを破壊しちゃって・・・それが監査官の人にバレて、お父さんに大目玉食らっちゃいました」
てへっと作り笑顔をこちらに向けてくると同時に顔を覆っていた布が地面に落ちると大きな絆創膏を頬に貼った見覚えのある顔がそこにはいた。
「あんた、また破壊したの?」
「す、すいません調子に乗って加減を間違えちゃって!」
聞けば、このメルト王国ではダンジョンからモンスターが放たれ、街に押し寄せる事が多々あるらしい。現状は対処できる数に留まっているが、万が一ダンジョンが破壊され地下にいる強力なモンスターが次々と放たれた場合、対処できない恐れがあるためダンジョンを壊さないという法律のようなものがあるらしい。
しかしエリスは調子に乗って思いっきりダンジョンに傷をつけてしまい、どうやら結果として眠っていたモンスターが俺たちの知らない所で数匹外に放たれ、エリスの責任が問われたということだ。
「因みに、ダンジョンから街に帰ってる時に出会った謎のカツラのおじさんは私の師範で、休日に休んでいたところ私たちのせいで緊急出動させられて道に迷っていたそうです」
「なんで道に迷ってたんだよ」
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