第24話 真野神社2

 私は、優花が指さした方を見ました。『あだち美容室』の先に、小さな赤い鳥居が見えています。


 私たちは『あだち美容室』の前に立って、その鳥居を見つめました。玲奈がポツリとつぶやきました。


 「とうとう来たわね」


 私は言葉が出ませんでした。緊張と感慨と・・恐怖が入り混じったような感覚に襲われて、言葉が出ないのです。そんな私を励ますように、優花が明るく言いました。


 「でも、こうして見ると・・どこにでもある普通の神社じゃん」


 夏葉が私たちを促します。


 「とにかく、入ってみましょう」


 夏葉の言葉で、私たちは神社の前まで歩いて行って・・一旦立ち止まってから・・思い切って、鳥居をくぐりました。


 そこは、本当に小さな神社でした。鳥居のすぐ先には、小さな本殿があります。本殿の前方には蔀戸しとみどがあって、戸が開け放たれていました。蔀戸の中は暗くて分かりません。蔀戸の上には、丸に縦の一本線が入った社紋が飾られています。本殿の前には、2頭の狛犬が並んでいます。狛犬の口から、舌が長く伸びて、中空でうねっているのが見えました。玲奈が狛犬の前に立って、その舌をしげしげと眺めました。


 「これが、カクヨムの『南京玉すだれ』さんの作品にあった、蛇の舌を持った狛犬ね」


 夏葉が「本当に蛇みたいね」と言いながら、その舌に触ろうとしました。


 優花が夏葉の手を押さえます。


 「夏葉。触らないほうがいいよ」


 優花の声に、夏葉が慌てて手を引っ込めました。すると、玲奈が私を振り返って、こう言ったのです。


 「美咲。手紙にあるように・・真野神社に来たけれど、これからどうしたらいいのかしら?」


 それは、私も疑問に思っていました。あの手紙には、真野神社に来いとだけ書かれていて、何をしろとは書かれていないのです。


 私は狭い神社の境内を見回しました。境内には私たち以外には誰もいません。


 そのときです。誰かが鳥居から境内に入ってきたのです。


 それは・・看護師の格好をした女でした。白衣を着て、頭に白い看護帽を被っています。私たちが三軒茶屋の駅前で立っていたときに、広場の床のタイルが動いて出来た絵の女でした。女は車輪のついた簡易ベッドのようなものを押しています。簡易ベッドの車輪が敷石に当たって、ゴロン、ゴロンと音を立てています。ベッドには白い布が掛けてありました。その布が人の形のように膨らんでいます。まるで、白い布の下に、人の身体があるように・・


 私たちは恐怖で声が出ません・・


 女は私たちの方へ、ベッドを押してきます。ゴロン、ゴロンという音が次第に大きくなってきます。そのとき、ベッドの車輪が境内の敷石に当たって・・ベッドがガクンと傾いたのです。


 その衝撃で、ベッドの上の白い布が大きくめくれ上がりました。すると、白い布の中から・・何かが私たちの足元に転がり落ちたのです。


 それは・・血まみれになった・・女の生首でした。髪を振り乱していて、血走った目が恐ろしいものを見たときのように、恐怖で大きく見開かれています。口は何かを叫ぶかのように、大きく開いていました。その口の中で、真っ赤な舌がうごめくのが見えました。すると、その真っ赤な舌がどんどん伸びて・・口の中から飛び出してきたのです。女の舌が蛇のように、くねくねと地面を這いました。そして、優花の足に絡みついたのです。


 「ぎええええ」


 優花が恐怖に引きつった声を上げました。私の身体は恐怖で動きません。夏葉の身体も、金縛りにあったように硬直したままです。玲奈が足で、その蠢く舌を蹴り上げようとしました。しかし、玲奈の足は、空しく舌の上の中空を蹴っただけでした。その拍子に、玲奈がバランスを崩して、身体ごと横の狛犬にぶつかりました。


 すると、石の狛犬が土台ごと傾いて・・地面に転がった女の生首の上に倒れていったのです。グシャッという大きく嫌な音が響いて、血が周囲に飛び散りました。私たちが見ると・・生首の頭の部分が大きく割れていました。そして・・そこから・・無数のウジ虫がぞろぞろと這い出してきたのです。生首の舌が優花の足から離れて・・そのウジ虫を舐め始めました。


 看護師の女が腰をかがめると、その生首を両手で抱えあげました。白衣の手首のところが持ち上がって・・看護師の腕に『丸に一本線』のマークがあるのが見えました。看護師が手に持った生首を私たちの方に突き出しました。看護師の手の上で・・生首の舌が、うねうねと踊って、ウジ虫を舐めています。ウジ虫がぼとぼとと地面に落ちていきました。それから、看護師の女は生首をベッドの上に乗せたのです。そして、私たちの方を見ました。すると、生首の女の口から声が出たのです。地獄の底から響くような声でした。


 「お前たち・・死ね・・」


 看護師の女が、私たちに掴みかかってきました。


 私たちは「キャー」と悲鳴を上げると・・目の前の本殿に駆け上がって、蔀戸の中に飛び込んでいったのです。

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