依存

長万部 三郎太

執刀医にあとの処置を

重篤な患者が搬送されてきた。

幸いにも意識はあったため、ストレッチャーに乗せたまま声をかけた。


「ここがどこか分かりますか?」


「ネットで現在地みたら四方山よもやま病院だと……」


不安定ながらハッキリとした患者の第一声。

わたしは引継書にさっと目を通すと患者の命に別状はないと判断し、ヒアリングを続けることにした。


「身体で痛いところや違和感がある部位はありますか?」


「ネットで調べたのですが、どうも神経系らしくて……」


「自覚症状はどんな感じでしょうか?」


「頭がボーっとしてるような、ネットでもそういう症状が載ってて……」


書類に記載されている通り、会話が上手く噛み合わない。

わたしは患者の言葉を遮ると、強めの口調でこう制した。


「ネットの話は関係ありません。あなたの今の症状をお聞きしています」


しばしの沈黙の間、患者はこう答えた。


「……ネットではこの病院の評判は良かったのに、

 先生の高圧的な態度ってどうなの?」


わたしは申し送りにいくつか追記すると、手術室で控えている執刀医にあとの処置を任せることにした。


< 重篤なネット依存症。命に別状は無いが早急に回線を切る必要あり >





(申し送りに書かれても困るシリーズ『依存』おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

依存 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ