最終話 桜咲く家族の道

 9年後の春、桜が満開の公園を、佐藤家の4人が歩いていた。

 梨花と涼太の手を繋ぎ、3歳の次男・優斗と4歳の長男・悠真がキャッキャと笑いながら駆け回る。


 優斗は小さなサッカーボールを追いかけ、悠真は「優斗、待ってー!」と兄貴風を吹かせて後を追う。梨花はそんな二人の姿に、目を細めて笑った。


「ほんと、元気すぎるね、この子たち。涼太、ちゃんと見ててよ!」


 涼太は優斗のボールを軽く蹴り返しながら、照れくさそうに笑った。


「お前もな、梨花。悠真、ボール蹴りすぎて木にぶつかりそうじゃん。」


 結婚して9年、梨花と涼太は幸せな日常を築いていた。

 涼太は地元のスポーツクラブでサッカーコーチとして働き、子供たちにピッチの楽しさを教えている。怪我で諦めたユースの夢は、こうやって新しい形で繋がっていた。


 梨花は音楽教室でギターを教え、週末には家族でユアーズの曲を聴きながら歌うのが恒例だ。二人の家は、笑い声と子供たちの足音でいつも賑やかだった。


「優斗、こっちおいでー! ママのとこ来な!」


 梨花が手を広げると、優斗がトテトテと走ってきた。でも、小石につまずき、ドテッと転んでしまう。優斗の目からポロポロと涙がこぼれた。


「うわーん、ママー!」


 梨花が駆け寄ろうとした瞬間、悠真が先に優斗のそばに飛び込んだ。4歳の小さな手で、弟の手をぎゅっと握る。


「優斗、大丈夫! ほら、立てって! 兄ちゃんが助けるから!」


 悠真の真剣な顔に、優斗は泣きながらもコクンと頷き、ヨロヨロと立ち上がった。

 梨花はそんな二人を見て、胸がキュッと熱くなり、デレデレの笑顔で飛びついた。


「お前ら、めっちゃいい子だなー! ほんと、最高の兄弟じゃん! これからもずーっと、支え合って生きていくんだぞー!」


 梨花は優斗と悠真を両腕でぎゅーっと抱きしめ、頬をスリスリ。優斗は「ママ、くすぐったい!」と笑い、悠真は「兄ちゃん、かっこいいって?」と得意げに胸を張った。


 涼太は少し離れてその光景を見つめ、静かに呟いた。


「本当にこのままでいてくれよな。」


 その声には、どこか懐かしい響きがあった。涼太の目に、優太と自分の姿が重なった。


 中学のピッチで優太を庇ったあの日の自分。怪我でサッカーを諦めた夜、優太が「涼太の夢を背負うよ」と約束してくれた笑顔。

 二人はどんな時も支え合っていた。優斗と悠真の小さな手が握り合う姿は、まるであの頃の兄弟のようだった。


 梨花が振り返り、首を傾げた。


「涼太、なんか言った?」


 涼太は柔らかく笑い、3人に近づいた。


「何でもないよ。3人とも、めっちゃかわいいなって思って。」


 涼太は梨花の肩を抱き、優斗と悠真の頭をわしゃわしゃと撫でた。優斗が「パパ、ボールー!」と笑い、悠真が「兄ちゃんの方が強いもん!」と張り合った。

 梨花は涼太の腕に寄り添い、桜の花びらが舞う空を見上げた。


「涼太、私たち、ほんと幸せだね。」


 涼太は梨花の手を握り、優太のキーホルダーが入ったポケットにそっと触れた。


「ああ。梨花、悠真、優斗…お前らと一緒なら、ずっと幸せだ。」


 桜の木の下、4人の笑い声が響き合った。梨花と涼太の愛、優斗と悠真の絆は、過去の傷を癒し、未来を照らす光だった。

 優太の笑顔が、春の風にそっと寄り添うように、佐藤家の物語は続いていく。

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桜の約束の下で @yungtetsu420

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