色杷短編集

色杷(いろは)

【色褪せた『死』の走馬灯】

〖そのほか〗#死という言葉を使わずに死を表現する で書いたもの。


***


いつも目を閉じると、そこは暗闇で何も何もなかった。そんな暗闇に僕は何も感じない、だっていつもの黒だから。


ある時僕は、いつものように目を閉じた。とても眠かったから。そしていつもの空虚な黒を待ちわびた。

黒はなかった。

そこには色褪せた"色"があった。ふわりふわりと動く、確かに在ったはずの僕が今まで見てきた色。


―ああ、虚しいな。


目を閉じて、初めて持った感想だった。セピアな記憶が心を揺さぶった。


やがて"色"は僕の存在に気づいたかのように動き出し、僕の前に一つの道を示した。さあ、歩いて。そう"色"たちが僕に語りかけているようだ。一歩、前に出す。


すると、一つの"色"が溶けるように優しく姿を消した。"色"が消えた時、虚しさが和らいだ。


―これは、"記憶"。


そう確信した。色褪せた"記憶"が今、鮮明に蘇る。その時に残した感情が僕を揺り動かす。

一歩、一歩。歩みを進める度に、消えてゆく"色"と蘇る"記憶"。嬉しい。楽しい。悲しい。だけど、幸せな気持ち。


最後の"色"が消えて、僕は全てを思い出す。振り返って見る道は、何もない黒じゃなく全てがある光だった。僕は生きた。

優しい声が降り注ぐ。聞きたかった誰かの声。


『よく頑張ったね、おめでとう』


温かい涙が零れ落ちていた。


『おかえり』


そして全てが白に包まれる。

僕という一人の人間は今、光と共に。

白へ還った。

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