ヤエー!初めてのソロキャンプ

砂糖水色

第1話 ソロキャンプ

晴子



 「晴、もう普通にソロキャンプ出来るだろ?」

 5月の下旬、静かな森の中、同じ焚き火を囲っている、父真(まこと)が当たり前のように言った。

 

私は中学生の時アニメの影響でキャンプにハマった。

同時に父が私以上にキャンプに夢中になった。

当時私はソロキャンプ出来る女子高生になりたいと父に言った…らしい。

 数年たった今となっては別に…まぁ、ソロでやってみたい気持ちはない事もないかな?程度だった。

だけど父はキャンプに行く度、私に課題を課す。

椅子、テーブルの組み立て、テント設営、撤収、焚き火の火起こし、料理、バイクへの積載、ルート確認等だ。

おかげで、ほとんどの事は自分で出来る女子高生になった。

 

今日は2人でキャンプしている。何度も利用している神奈川県の相模原市にある緑根キャンプ場。藤沢市の自宅から50km程度の近場だ。


 今回は父が午前中仕事があったので、別々にキャンプ場まで来て別々のテントで一緒にキャンプしている。

私の交通手段はバイクだ。

リトルカブだが、父がカスタムして100ccになっている。

ピンクナンバーなので、高速には乗れないが、とても気に入ってるバイクだ。

免許は高校1年の時に茨城まで合宿に行って取得した。


「いやいや、ってゆーか今の時点でほぼソロキャンプじゃん?スポンサーが居なくなるだけで。めんどくさ」

「それがそうでも無いんだな。やってみたら分かるよ。晴がどんだけ俺に甘えているのかを」

したり顔で言う。

この父親はホントめんどくさい。

「あとスポンサーとか言うな。」

 ちょっと父が不貞腐れてる。

「まぁ、俺としては晴はソロキャンプしても平気だと思うよ。俺のおかげで。」

 得意げに父が言うので私は口を尖らせる。

「最後のはいらないね」 

父はすぐにこういう物言いをする。周りが軽くイラッとするのを楽しんでいる節さえある。

 だけどまぁ、実際そうなのだ。ギアもほとんど父のものだし、父の指導の元色々出来るようになった。ほとんど何も教えてはくれなかったが。

「でも、この二人ソロキャンプ、ソログルキャンプ状態と変わんなくない?」

「変わる変わる。そりゃ違うさ。可愛い娘に無理にやれとは言わないけどね。

え?むしろこんなにキャンプしてるのにソロキャンプした事無いんですか?プププ」

 父が口に手を当てて嘲笑う。

腹立つわーこの父。

私がソロキャンプ出来ないわけないじゃん。って本気で思うほどイラッとした訳じゃないけど、まぁ、やってみようかな?とは思った。

父さんと日程を合わせる必要が無くなるのは凄く魅力的。

「でもホラ、お母さんがなんて言うかな?ダメって言いそう」

「あー雪乃さんはなぁ、まぁ、平気じゃないかな」

ウチの母雪乃は普段真面目で穏やかでとても優しい人だ。

だけど、本気で怒ると父よりも数段恐ろしい。

 

――忘れられない出来事がある。

 まだ私が小学生、弟が幼稚園児だった頃、旅行先で父と母が軽い口論をした。

母の行動に対し、父が文句を言い。口八丁で完全勝利した。

帰りの高速道路で、父がタバコを吸うためサービスエリアに停車した。

母と私たちは、降りる用も無いので、そのまま乗っていた。10分もかからずに父は戻ってくるだろう。

だが、父の姿が見えなくなってから母は助手席から運転席に移動し、無表情でエンジンを掛けた。

母は無表情のまま車を動かし、喫煙所の前をゆっくりと通過し

携帯の電源を切った。

そして帰宅するまで止まることは無かった。

あの時、喫煙所で父が見せた表情は今でも忘れられない。


「お父さん財布に現金持ってるのも知ってたし、あのサービスエリアから高速バスで帰って来れるの知ってたからね。あれは痛快だったわ」

と母は後に笑顔で語った。

私と弟は絶対に母だけは本気で怒らせてはいけない。と強く思った。

その辺のタイミングから父は母の事を「雪乃さん」と呼ぶようになった。

きっとタバコを辞める大きな理由の一つにもなったと思う。

と言う事で私は母にLINEしてみた。

「私ソロキャンプしてみてもいい?父さんはOKだって。」

「いいんじゃない?女の子一人はちょっと怖い気がするけど。ちゃんと対策して計画すれば平気でしょ。父さんみたいに適当にやっちゃダメよ」

即レスだった。

この文章入力する時間あった?って思うくらいに早かった。

コレ夫婦間で話ついてたヤツだな。と勘ぐりたくなる。

「まぁ、OKみたい。ちゃんと計画立ててね。だって。」

 父は満足気にビールで喉を鳴らした。

ソロキャンプか…。

「まあ、ふもとっぱれかなぁ。

カブで3時間半。ちょっと遠いけど。どう思う?」

 私が尋ねると

「まぁ、良いんじゃない。デビューの場所は思い出に残るだろうし。好きなとこにしたらいいよ。」

「そうだね。暑くなる前にいきたいなぁ。確か再来週がバイト空いてたような…」

スマホでスケジュールを確認する。やはり再来週なら平気だ。

私はキャンプ場で焚き火を前にして、次のキャンプの予定を詰めていく。


 

 

 



 

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