犬こそ最高のパートナー?

あさづけ日和

犬こそ最高のパートナー?

天気は快晴。何もなくとも外に出たくなるような、ある日、男は何気なく散歩していた。

そこに首輪をつけた犬が横切って行った。

男はひとり呟いた

「とてもかっこいい大型犬だなあ、俺も飼ってみたいものだ」

その呟きが届いたのか犬は男の方を向いてこう言った

「犬を飼いたいだって? それならお邪魔していいかい? いやなに、渡りに船ってやつだよ。ちょうど飼い主を探してたんだ」

男はとても驚いた。言葉を理解しているだけではなく、話すとは思いもやらなかったのだろう。

男はこう考えた。夢か幻でも見ているのか?

それとも本当に犬と会話してるとでもいうのか?

だが静寂を破ったのは再び犬だった。

犬は男に言った。

「どうするんだい? 飼うというなら早くしてもらえるかい? 見たいテレビがあるんだ」

男は急かされたからか、家に連れ帰ることにした 。


 男は犬に自宅を案内すると、犬はたちまち自分の部屋を決めて、テレビを見始めた。

「良かった良かった、野球の時間に間に合ったよ。僕はこれが見たかったんだ」

男は犬が野球観戦が好きなのにも驚いたが、まず聞かねばならぬことがあった。

「えっと、君でいいかな?名前を知らなくてね。首輪つけてるみたいだけど、本来の飼い主はどうしたんだ?」

犬は平然と答えた。

「顔も見たくないと捨てられたよ。どうやら、喋る犬というのはなかなか珍しいらしいね」

「せっかく話せるように頑張ったというのに、これだよ。まったく、世知辛い世の中だよね」

男は驚きと共に、少し不安げな表情を浮かべながらも、この犬を飼う決意を固めた。

「まあ、いいか。これも縁だし、君と一緒に過ごすのも悪くない」


 この一人と一匹が共同生活するようになって一月が経とうというところ、犬はこの生活に慣れたか、自然とこの男の世話をするようになった。

朝は甲斐甲斐しく起こし、夜は共に食事をし、風呂に入って共に寝る。そういう生活が続いていた。

 

 そんなある日、男が仕事から帰ってくると台所からいい香りが漂っているではないか。

男は犬に尋ねた。

「来客かな? いい香りが漂ってきてるよ、お客さんが夕飯を作ってくれてるのかな?」

犬は笑って答えた。

「ふふっ、来客かい? 今日は誰も来てないよ」

「でもいい香りだったらわかる。今夕飯が出来上がったところなんだ。最近お昼の料理番組で勉強しててね。」

「そうそうこれを言うのを忘れてたよ。おかえり!ご飯作って待ってたよ」

 男は目の前が反転したような錯覚を覚えた。

今ならわかる気がした。この犬がどれほどまでに「完璧なパートナー」なのか、そしてなぜ前の飼い主が手放したのかが──。



・解題&後書き

この作品は「ペット」というテーマを通じて、依存と独立、そして人間と動物の関係の微妙なすれ違いを描いています。主人公の男が犬を飼いたいと思い、その思いが現実になることで、最初はお互いに「ペットと飼い主」という認識を持つものの、犬にとってはそれが完全な上下関係でなく、むしろ対等な立場「パートナー」を求めるものであったことに気づくところがキーとなっています。

ただただ、男が犬に求めていたものと、犬が応えようとしたものが、少しだけすれ違ってしまったお話です。

それに完璧すぎる関係は逆に居心地が悪いということですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犬こそ最高のパートナー? あさづけ日和 @asazuke_biyori25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ