第2話 俺は装備ときびだんごを買った

「さっさと出ていけ! この無礼者が!」

「痛っ……」


 俺は数人の兵士たちに連れられ、城の外に追い出され、雑に放り投げられた。

 そして、城の中に戻ろうとする兵士たちに、俺は声をかける。


「ちょっと待ってください! まだきびだんごも剣も旗も貰ってません!」


 その言葉に、兵士たちは困惑する。

 

「あいつ、何言ってんだ?」

「知らねえよ。なんだよきびだんごって」

「とりあえず、金だけ渡しとけば良いか」


 そんな会話を終えた後、兵士の1人が、何かの入った小袋を取り出すと、俺の元に放り投げた。


「ま、どうせすぐ死ぬだろうけど、これで頑張れよ〜」


 なぜか兵士たちは笑いながら、そのまま城の奥へと戻っていってしまった。


「もしかしてきびだんごか?」


 俺は兵士に渡された小袋を開ける。


「おぉ……き、綺麗だ……」


 中に入っていたのは、きびだんごではなく、キラキラと輝いた金貨や銀貨だった。

 数えてみると、中に入っていたのは、金貨が3枚と銀貨が4枚。


 なるほど。装備やきびだんごは、自分で用意しろってことか。

 きっとこれは、与えられるばかりでなく、自立しなさいという、爺さんと婆さんからのメッセージなのだろう。


「よし! 鬼を退治するためにも、まずは装備を整えるぞ!」


 俺はもらった小袋を握りしめ、街へと駆け出した。




 俺はその足で、まずは装備を買うため、武器屋に入っていった。

 正直、初めての街で、どこに何が売っているのかとかは全く分からなかったが、剣や防具がキラリと光るおかげで、ここにはすぐにたどり着けた。


「どれが良いかな〜」


 俺は数多く並べられた剣の前で、悩む。

 俺がどれにしようかと悩んでいると、店の奥からガタイの良い店主が現れた。


「お兄さん、見ない顔だね。もしかして他国から来た人かい?」


 店主は豪快な笑顔を俺に向けながら、そう聞いてきた。


「まぁ、他国というか、他世界といいますか……」

「他世界……えっ、まさかお兄さん! 異世界人か!?」

「はい、ついさっきやってきて、爺さん婆さんにお金を貰ったので、これで鬼退治に行こうかと」


 そう言うと、店主は激しく驚いた。


「ま、まさか、鬼退治って、オーガ族と戦うってことだよな!? いくら異世界人でも、オーガ族は無茶だ。やめておいた方が良いぜ?」


 俺の身を案じてくれているのだろうが、どう言われても俺の意思が曲がることはない。


「えぇ……ですが、爺さんと婆さん、そして国民のため、俺は戦わないといけないんです」

「そ……そうか。そこまで言うなら俺は止めねえ。ただ、お前がせめたオーガ族と善戦できるよう、装備は俺が決めさせてもらう」


 すると、店主は力強くそう言った。

 これは願ってもない、嬉しい提案だ。

 俺はそれを了承し、早速店主に、俺に合った装備を選んでもらうことにした。


「どうだいお兄さん? 着心地は?」


 俺は店主に選んでもらった装備を着て、鏡の前に立つ。


「おぉ、良いですね。見た目も日本の武士っぽいですし、いかにも桃太郎って感じがします」

「ん……? ブシ? モモタロウ?」

「あぁ、こっちの話なので気にしないでください」

「そ、そうか」


 そうして俺は装備を着たまま、会計をすることにした。


「えっと、合計が金貨10枚だね」

「はい、えっと金貨が1、2、3……」


 まずい……全然足りない。

 そうか、これは高い装備じゃなく、安い装備でも鬼を退治できるはずだという、2人からの期待と試練なんだ。


「あれ? お兄さん、もしかして金貨10枚も持ってなかったかな?」

「はい、3枚しかありません」

「ぐっ……こうなったら、今回だけ特別! 金貨3枚で売ってやる!」


 すると、店主が頭を押さえながらそう言った。

 なんて器の大きい店主なのだろうか。

 だが、これは俺に与えられた試練。ここでこの店主の優しさに甘えれば、爺さんと婆さんの期待を裏切ることになる。


「いや! すみません! やっぱり、定価で金貨3枚以内に収まる装備でお願いします!」

「えっ……何を言って……定価で金貨3枚の装備なんかじゃ、オーガ族には勝てないぞ!?」

「良いんです! これは俺に与えられた試練……そもそも装備に頼りきっていたら、鬼には絶対に勝てません! なので、定価で買わせてください!」


 俺の言葉に、店主は驚いて声も出なくなっていた。


「わ……分かった。すぐに用意する……」


 俺は着用していた装備と剣を取り外して店主に返すと、店主は店の中を走り回って、新しい装備を持ってきてくれた。


「はぁはぁ……これが合計で金貨3枚だ」

「わざわざありがとうございます」


 俺は金貨3枚を店主に渡し、店主の持ってきてくれた装備を身につけた。

 確かに、値段が安いだけあって、さっきよりも薄くて防御力が低そうだ。

 だが、桃太郎だってそこまで重装備は着ていなかったはず。

 残りは自分の力でなんとかするしかないな。


「ありがとうございました〜!」

「おう! 絶対に生きて帰ってこいよ!」


 そうして装備を手に入れた俺は、店主に挨拶をして店を後にした。

 

 

 

 そうして次に俺が向かうのは、団子屋だ。

 目的はきびだんごだが、きびだんご屋なんてコアな店があるはずがないだろうし、とりあえず団子屋っぽい店があれば良い。


 そう思って街を歩いていると、どこからか香る香ばしい匂いが、俺の鼻を刺激した。


「この匂いは……味噌? いや、みたらしだ!」


 俺が匂いのする方を辿っていくと、少し古い見た目の和風な建物にたどり着いた。

 見れば、中にはうちわのようなもので火を仰いで、団子を焼いて座っている、老人夫婦がいた。


 俺はのれんをくぐって店の中に入る。


「いらっしゃい」

「すみません。きびだんごを4つください」


 俺が注文すると、お婆さんは目を丸く見開いた。


「キビダンゴ……? なんだいそりゃあ?」

「ほら、もち粉とか上新粉に砂糖をまぜて作るあれですよ」

「砂糖!? 砂糖って言やぁ、甘味だろ? そんな上物、ウチが取り扱えるわけないだろう。ありゃ高級品なんだよ」

「そうなんですか」


 知らなかった。この世界では、砂糖は貴重品、高級品なのか。

 だが、きびだんごがないと、この後犬と猿と雉を仲間に出来ない。

 どうにかして作って貰えないだろうか?


「なんだ? 騒がしいな?」


 すると、奥からさっきまで団子を焼いていたお爺さんが顰めっ面をしながらやってきた。

 そして、お婆さんがお爺さんに、俺とのやり取りを伝える。


「馬鹿者が! 甘味など貴族しか使っておらんわ! もしかして小僧、うちは貧乏とでも言いたいんか?」


 なんだか俺がクレーマーみたいな言い方だ。

 全くそんなつもりはないのだが、きびだんごはなきゃ困る。

 そこで、カウンターに立てかけてあった看板が目に入った。


 見れば、団子1本銅貨1枚なのだとか。

 この世界の通貨はよく分からないが、銀貨が銅貨よりも価値が高いのは確かなはずだ。

 俺は小袋を手に取り、中から残っている銀貨4枚全てを握って、2人の前に差し出した。


「お金はこれだけあります。砂糖がないならそれでも良いですが、何か代わりになるものをつくって頂けないでしょうか?」


 すると、さっきまで顰めっ面をしていたお爺さんが、妖しく笑った。


「にっひっひ。そういうことなら、作ってやらんこともないな」


 お爺さんは俺の差し出した銀貨4枚を懐にしまうと、そのまま厨房に戻っていった。


 それから数分待つと、お爺さんが何かが入った布袋を持って出てきた。


「ほれ、お前さんが言ってた材料っぽい物を使って、キビダンゴ? とやらを作ってやったぞ」


 俺はお爺さんから、その布袋を受け取る。

 その袋は、見た目以上にずっしりとしていた。

 俺は袋を開けて中を確認する。

 すると、中からはいかにも団子らしい、仄かに甘い香りが香ってきた。


「わぁ! ありがとうございます!」

「おう、もう二度と看板に書いてねえ品を注文するんじゃねえぞ?」

「はい! ありがとうございました!」

「にっひっひ。馬鹿なやつめ」


 そうして俺は団子屋を後にした。

 きびだんごを知らないことは驚きだったが、最終的に代わりになるものを貰えたから良しとしよう。


 俺はきびだんごを握りしめて、アラガンス王国の門をくぐり、王国を後にした。

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