第2話 憧れのセンパイと詰襟くん
学校の門をくぐり抜け、駐輪場の屋根の下でキュッ!とブレーキをかけて自転車を定位置に停める。
リュックを背負い直し、前かごの中のスクバを肩に掛ける。
膝に少しの違和感。
寒い日にいきなり動かして、冷たい風にバンバン当てたからなあ~
この脚もなんだか細くなった。かといって女子らしくはならないけど……
少しため息をついてしまう。
何はともあれ入学したてで、いきなり『体育は見学』ってのはしたくないし……
しばしの反省をしながら校舎へ歩いていった。
と、“黒い詰襟”が居るのが見えた。
『エロ学』……いやいや校内なので正式名称で言わねば!
ここ『ラファエル学園』は女子も男子もブレザーだ。
だから詰襟の学生は応援部以外では独りのはず。
その人とは!
『引きこもりの
見かけたのは始業式の日と、このあいだのHRでの自己紹介タイム以来だ。
どうして彼が校則とは違う服装で、しかもたまにしか来ないで(入学式では見かけなかったので多分、ダブリだと思う)ずっと学校に通い続けられるのかが不思議だ。
『ラファエル学園』の校則は厳しい。
飲酒は即免停、不純異性交遊(いったいいつの時代だ?!!)にいたっては1回で免取りになってしまうかもなのだ。
なのに彼はどこか悠然と、引きこもり“と黒い詰襟”をやっている。
まるで、気が向いたら学校に来るみたいな…… でもグレてるとかそういう感じは全然なくて…… なんか笑っちゃうけど 昔のドラマの学級委員みたいな雰囲気なのだ。
なので私は彼のその“雰囲気”が面白くて気に入っている。
しかし、そんな事より、彼と一緒に居るのは……憧れの
真業司センパイについては語りますよ! ええ!たっぷりと!!
広いご自宅のすべてをばあや様とお二人で管理なさってらっしゃる。
それも!
炊事洗濯お掃除はもちろん、お庭の管理やお家の修繕まで!!
「ばあやの私に対する仕込みが良くて、すべてこなせますわよ」と涼しげに微笑まれる。
そしてアルティメットレア級の美少女でらっしゃる。
私がスマホの待ち受けにしてる真業司センパイとのツーショット写真を覗き込んだお母さんに
「これ、SN●W入ってないよね?! 私の全盛期でもこのコには遠く及ばないわ……お母さんは飛び切りの美少女は大好きだから、ぜひうちへ連れてきなさい!!」
と言わしめたほどだ。
そのお顔は
「あまり長くなりすぎると邪魔になってしまうから」と背中辺りで切りそろえた黒くてサラサラの髪
前髪は分けておでこを出してらっしゃる。
ネ申的美少女はおでこを出してもOKなのだ。
おでこと、きれいに通った鼻筋が聡明さを輝かせている。
そしてもって生まれた長いまつげに縁取られた黒目がちの優しい瞳
小さいけどきれいなピンク色のくちびる 形の良い細いあご。
背は私よりだいぶ高く、男子と肩を並べるほどだから、たぶん170cmくらい。
もちろんスラッ!としてらっしゃる。
そんな真業司センパイに私は『女子演劇部』に勧誘していただいたのだ。
入学式の日。参道の両脇にある屋台のように、あまたのクラブやサークルが新入生の勧誘合戦をしていた。
サッカーのスポーツ推薦もなくなり、図らずも『エロ学』もとい『ラファエル学園』に入学してしまった私は、特に興味も持てず、ドジドシ人波をかき分けていた。
その時「ちょっとお待ちになって!!」と裾を摑まれてしまったのだ。
「はしたなくて、ごめんなさいね」
鈴の鳴るような声で謝られて、私はドギマギしながら声の主を見ると……
裾を掴んでいるきれいな長い指にはバンソウコウが巻かれている。
後でお聞きしたら
「ブルーレイレコーダーが壊れてしまって。それはもう仕方ない事なのだけど、何が原因だったか見てみたっくて、分解していたら指を切ってしまったの。ダメね。分解なんかしたら」と少し恥ずかしそうに顔を伏せてしまわれた。
ズッキュン!撃ち抜かれましたわ!!
そもそも真業司センパイが『女子演劇部』を立ち上げられたのだって、センパイが1年生の時、せっかく入部した演劇部で、男子達がセンパイを巡ってとんでもない事になり、女子男子とも険悪になってしまったから。
お心を痛め退部した真業司センパイは学校と交渉して、仲の良い3人の女子と新たに『女子演劇部』作ったのだ。
その経緯があって“鬼の”学園長先生からも絶大な信頼を得て、今年の2月には先生方から「2年生になったら生徒会長に立候補して」と頼まれたらしい。
もっとも
「申し訳ございません。家庭の事情で委員会のお仕事まではちょっと……」とお断りになったとのことだ。
そのセンパイに「あなたを待っていたの!! 入部していただくまでは、この手を離しませんわ!!」と言われては、私には持ち合わせがないかもだけど、「女冥利?」につきるというもの。
二つ返事で「未経験者ですが、よろしくお願いします」と頭を下げた。
おかげで私の学校生活は楽しい限りだ。
その真業司センパイが影日向くんの横にお立ちになって、何かお話をされている。
そりゃ、『急いで行かなきゃ!』と大股でズンズン歩く。
「センパイ!おはようございます! あ、影日向くんもおはよ!」
センパイはさやさやと微笑まれる。
「おはようございます。 今日もお元気ね。でも前にお教えしたように“綺麗に”歩くことを心掛けてね。その方が舞台映えするから」
いえいえいえ私ごときが舞台に立つのは皆様のお目汚し、大道具小道具その他もろもろで十分楽しいです。
センパイはスカートにすぅーっと手をやって、“綺麗に”しゃがまれた。
「何をご覧になっているの?」
「タンポポ。
センパイを“
影日向くんは只者では無い!!
センパイは影日向くんが示した場所をご覧になる。
「総苞片(そうほうへん)と言うのだけど。閉じているでしょ。これが日本タンポポの特徴。この辺りでも最近はあまり見かけなくなったよ」
「日本タンポポは西洋タンポポによる駆逐ではなく、都市化による影響で減少したとも言われてますよね」
「西洋タンポポの花粉が日本タンポポに付着し、結果としてそれらの種子の数が減る繁殖干渉が原因と言う説もあるんだよ」
う~ん!! 『生物I』の授業みたい
目をパチクリする私をご覧になってセンパイは「うふふふ」と微笑まれる。
「ところで一ノ瀬さん!」タンポポに目をやったままで影日向くんが突然話しかける。
「このあいだ縁日で金魚すくいのテキヤをやってたでしょ?」
ゲゲッ!! バレてる!?
「あ、あれはね!、所属していたサッカーのジュニアチームの祝勝会で知り合った人から頼まれて……アルバイトで……」
「テキヤの関係者のお姉さんから?」
影日向くんからじっと見つめられると、なんだか変に“ゲロ”ってしまう。
「いえ……お兄さんです。お酒が入ってみんなで雑魚寝していた時にスカウトされて」
「まあ! お酒を飲んで?! しかも不純異性交遊していたの??!!」センパイが目を丸くする。
「いえいえいえいえいえいえ!!!! 私はほんの、口を付けた位で、ましてや不純異性交遊なんて、絶対していません!!」
影日向くんは私から少し視線を外して呟いた。
「でもくちづけはしたんだ」
「してないっ!!!!」
思わず仁王立ちして叫ぶ。センパイの前なのに…… 涙目だよ、モウ
「いずれにしてもあんな大声で呼び込みしていたら、バレるの当たり前だよ。アルバイト禁止なのに」と影日向くんはまたタンポポに目をやった。
そうなのだ!『エロ学』は基本、バイト禁止なのだ。それを聞いた時にはどんなにガッカリしたことか……
「そうねえ! 困った子ね」とセンパイはくすぐったく私の頭を撫でてくれる。
「私は誰にも何も言わないけど、ご両親、そして私が悲しむ様なことは、しないでね」
「はい」と私はしょんぼりと頭を下げた。
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