おや? あまり、変わらない世界。

第2話 おやっ?

 晩生が消えて、地球側で一日が経った頃。

 再び魔法陣が煌めく。

 だが、晩生達のときに比べて少し色が薄い。


 そして次の日も……




「何だここは?」

 馬鹿三人。いや、仲良し三人組は、見事に召喚されてきた。

君島 雅良きみじま まさよし石原 義信いしはら よしのぶ工藤 健くどう けん


 彼等は珠による選定を受けると、銀色の光で文字が出た。

 よくある称号、『勇者』『賢者』『剣帝』。

銀珠ぎんたまじゃが、力はあるだろうて。鍛え上げ、その力を我らのために使うが良い」

 偉そうなオッサンが、偉そうにのたまう。

 無論君島君は、即座に反応。だが、学校とは周りの反応が違った。


「ああっ? ふざけんじゃ。ふげっうごっ」

 君島が叫ぼうとした瞬間、瞬速で兵が近寄る。躊躇なく槍の石突側で、腹を突き上げた。

 そう、王に対する不敬罪。

 日本とは違うのだよ。日本とは……

 容赦の無い肉体的攻撃。この世界は暴力上等。弱い奴は死ぬという世界。

 屋外向けの槍タイプでは無く、床を傷つけない丸形だったので肋骨を数本折るだけで済んだ。


「そちらも反抗をする気か?」

 ぎろりと、石原達を睨む。

 当然だが、王も脳筋、武闘派野郎だった。

 ソドム王国、国王アスポデロス=カオース。

 その脇にいたのは、王妃ジョカと宰相アガレス=アスモデウスだった。

 石原達は、反抗の意思を否定。


 石原 義信いしはら よしのぶ工藤 健くどう けんは普通の部屋だが、君島 雅良きみじま まさよしは独房へと放り込まれる。

 ハッピー異世界生活は、日々の行いの所為なのか、底冷えする牢獄からの出発となった。

「畜生どうして俺が……」





 ―― 翌日、近くの小国でも。


 エリス王国で、白い光に包まれて、聖女が召喚された。

 深木 結葵ふかき ゆあ。そう、子どもの頃晩生のことを好きだった女の子。

 ただ、立て続けに召喚され、宇宙の真理か、女神の疲れか。徐々に召喚された者達の力は弱くなっていった。

 そう、聖魔法なら女神の底上げができる。

「もう…… またなの」

 どこかで誰かのぼやく声がした。


 そのため、学校からの帰り道に、いつもの様にたむろをして、結葵のまわりにいた男連中。見事に召喚されることが無くはじかれた。彼女の友人が勝手にアップした映像のおかげで、少し有名になっていた彼女。少し喜んだのだが、それは彼と会えなくなるという事をこの時は失念していた。


 魔法陣を見て、あわてて飛び込んだ、手首に封印の包帯を巻き、眼帯を付けた男の子もはじかれたようだ。

 悔しそうに泣いたのだとか……

「この世界は俺の生きる場所じゃ無いのに…… なぜ俺がはじかれたのだ」

 そんな事を言いながら。




 ―― さて、晩生達の召喚されたストロング大陸、ゼウス皇国。

 皇王ハーデス=エルデスト=サン。そして皇妃デメテルと王太子アレス。

 そこに、宰相タルタロス=ワームと男性軍軍団デュオニソス=エーレーン並びに

女性軍軍団長エウロス=ヘルメスが集まり御前会議を行っていた。



「さて、召喚者達だがどう見る?」

「宝珠の色は金色でございます。然すれば、その内包する力は強きものであると文書に記されております」

 宰相が報告。それを聞いて、うむうむと皆が頷く。


「示された称号も既知のもの…… 一人を除いてですが」

 それだけで、皆は理解できたようだ。


「本人はなんと言っておる?」

「はっ。まだ何もわからないとのことです」

「俺が、いえ失礼しました。私が見たところ、勇者様方は我が国とは流派が違いますが特殊な剣術を習得している様子。聖女様も体術を習得をしていまして、なかなかお強い。ただ、大木殿は…… 三回の男と指導役の兵から呼ばれております」

 そう言うと、王が困惑。


「ええ。基礎的な訓練。地に腹ばいとなり、腕の力を持って体を持ち上げるものも、三回が精一杯。腹の筋肉もへにょへにょでございます」

「まっ魔法はどうじゃ。賢者様は、この地に来て頭の中に理が浮かび理解できたと言っておったぞ」

 デュオニソスの首が振られる。


 そう彼等は、目に見える力。

 つまり物理的な物だけを見ようとしていた。


 彼の称号は、『授与者』それも取扱注意とまで書かれていたのに……

 いまは、仲間が少なく力が弱い。

 そう勇者のように、オラに皆の力をくれぇ。などとすれば彼の力は強くなる。

 それと経験数。


 いまは、知られていないが、体液を与えると、数日のみだが驚異的なステータスアップが得られる。

 そして、『授与者』の本質は与えること。

「きみ、勇者ね」

 彼が宣言をすれば、勇者だろうが賢者だろうが量産できる。

 これが本質なのだ。

 女神が称号に、わざわざ取り扱い注意と書いたのに……

 決して、異世界からバンバン召喚をすると、手続きが面倒だとかではない。上位の神から目を付けられるから、苦肉の策だとかまあ事情は色々とある。


 だが、地に住む者達はお構いなしに召喚を行う。 

 仕方が無いから、バレないように省エネで召喚が行われた。

 晩生達に使われた神気に比べて、君島達は当社比十分の一以下であろう。


 聖女の称号はあるのだが、深木 結葵など一般人に毛が生えたくらいの力となっている。そのおかげで、修行のためにゼウス皇国へと向かい、奇蹟を得ることになるのだが、それはまだ先の話。



 この時にはまだ、勇者達と同じ扱いだったのだが、徐々に扱いは下がり、部屋のグレードや食事が粗末になっていく。

「やっぱり僕なんか……」

 そう言ってぼやく彼に、運命の出逢いがやって来る。

 

 性格の悪い、家柄の良いだけの侍女から、見目がよく身分の低い侍女へ変わった。

 その時から、晩生付きの侍女となったのが、セレネ=ザウアーラント。

 騎士爵家の長女。どこかに嫁がないと、騎士爵など一代で終わり。

 この世界。定期的に戦闘があるから、報償である金銭の代わりに爵位が配られている状態で、その価値は低い。

 ただ騎士団からまともに訓練ができるまで来なくていいと、訓練からも外されて、セレネに習うことになる。


 だけどこの彼女が、晩生を救うことになる。

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