第11話「え、一般生活って高いんですか?」

「えーさん、死なないでぇぇぇ!」


早朝のスライム牧場に、あーちゃんの泣き声がこだました。


「いや、まだ死んでねぇし!?」


目の前では干からびかけたパンと、割引シールの貼られた水袋が転がっている。

そう、俺の最近の食生活だ。


「だって、毎日パンと水だけって……それもう修行僧だよ!」


あーちゃんの目が潤んでいる。

これはまずい。

泣かれるのが一番つらい。


「じゃあ、少しちゃんとした生活……してみるか?」


ということで、俺は街に出た。

久しぶりのショッピングだ。

金ならある、なにせアーマンタイトスライムを毎日刈ってるからな。


「これが異世界通貨バグか……。」


街の屋台に並ぶ肉串、なんと3銅貨(日本円で10円くらい)!

それが安く感じてしまうのが怖い。


「ちょっと贅沢してみるか……。」


で、調子に乗った結果――


「……なんか、この街、全部安すぎて逆に怖くない?」


気づけば「安全保障付き全自動飯炊き魔導鍋」とか買いかけていた。

冷静になれ、俺。


そこで少し遠出して、隣町にやって来た。

そこは工芸品や高級品を扱うオシャレな街。


「お兄さん、お目が高い。この鏡、なんと800万ゴールド!」


「買いま――。」


「待てい!!」


割って入ってきたのは、うーちゃん。イケメン賢者モードである。


「この鏡、どう見ても相場の十倍じゃ。ぼったくりじゃぞ!」


「え、そうなの?」


「そなた、金銭感覚がバグっておる!」


確かに最近、1億ゴールドの装備をポンと作ってた気がする……。


「この鏡、実は本物の『真実の鏡』。適正価格なら200万ゴールド、交渉しだいで150万じゃな。」


しっかり値切ってくれるうーちゃんの活躍で、無事購入。


「せっかくだし、見てみるか?」


俺が鏡を覗くと――


「……誰だ、このよぼよぼのおじいちゃん……?」


驚いて鏡をあらぬ方向に向ける。

と、俺の後ろにいた老人が、実は人間に擬態した魔物だったらしく、鏡がその正体を映し出した。


「きゃああああああ!!」


街中がパニックに!


「おーい、誰かこの鏡、勇者の装備品っぽいから持ってて!」


とっさに俺が鏡を渡したのは――


「え、ぼく?」とぽかんとするあーちゃん。


「うん、君なら大事にするだろ?」


「うんっ!ありがと!」


こうして、真実の鏡は勇者の手に渡った。


……その夜。


「普通の生活って……大変だな。」


一通り買い物を終えた俺は、草原の一角に立つ。


「ん?」


そこには『牧場開発許可済』と書かれた看板。


「……家、建てよう。」


ということで、俺はアーマンタイトスライム牧場にログハウスを建てることにした。


お風呂付き、書斎付き、あーちゃん用の部屋も完備。


結果――


「えーさん、豪遊だね!」


「言うな……。」


でも、ちょっとだけ誇らしかった。


次の日もまた、騒がしくて平和な日が始まる――。

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