インターホン
ヤマ
インターホン
平日、午後二時。
マンションの最上階。
共用廊下に、男の姿があった。
首からIDカードをぶら下げ、スーツを着て、顔はマスクで覆われている。
男は、ある一室の前に立ち、インターホンを押した。
ありふれた電子音。
返事はなかった。
しばらく待った後、男は首を傾げつつ、もう一度、インターホンを押した。
それでも、応答はない。
再度、押す。
……反応なし。
やがて男は、ポケットから工具を取り出した。
鍵穴に差し込み、慣れた手付きで、作業を始める――
その様子を、じっと見ている者がいた。
声も出さず。
そして――
一分にも満たない時間の後。
がちゃ、と音がして、扉が開いた。
男は警戒しつつも、にやりと口元を緩める。
侵入に成功した。
静かに。
速やかに。
足を踏み入れ、扉を閉める。
中は、異様に静かだった。
窓のない廊下は、日中にも関わらず、とても暗い。
1K。
若い女。
表札の、同業者が付けた印によると、この時間は不在のはずだ。
間取りと住民情報は、事前にある程度調べてある。
廊下の先――部屋の扉が少し開いている。
紙幣が数枚、床に落ちているのが見えた。
男は、疑問を覚えつつ、簡素なキッチンと、洗濯機、ユニットバスのドアの前を通り過ぎる――
そのとき、ふと、違和感を覚えた。
暗闇に少し慣れた目が、その正体を捉える。
床。壁。天井。
家電に至るまで。
すべてが、光沢のある何かで覆われていた。
よく知る、あの質感。
これは、まるで――
その瞬間。
気配。
しかし、男が振り向くより早く、何かが首に押し付けられた。
ストロボのような閃光と、衝撃。
一瞬だった。
悲鳴は、掻き消され。
意識は、刈り取られた。
数時間後。
女は、小瓶に「3」と書いて、冷凍庫に収める。
そこには、記念品が入った小瓶が、複数保存されていた。
それらには一つずつ、数字が刻まれている。
そのとき。
インターホンが鳴った。
合図。
「……1」
電子音の回数を数えながら、狩りの道具を手にした女が呟いた。
インターホン ヤマ @ymhr0926
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