掻き鳴らせ乙女たちよ
夜色シアン
Prologue
1/Session of Alive?
――盛り上がってるかー!
数万人の歓声の大波に被さるマイクの音声。スピーカーから轟く澄んだ声色がよりいっそう外に設営されたライブ会場を埋め尽くす五万人が賑わいの炎を滾らせる。
その荒波に負けないギターのメロディは力強く、しかし軽やかに音を轟かせる。
一定で、しかし場を盛り上がらせる音楽の脇役であるドラム。
曲の芯となる低く轟き、周囲の音を纏めあげるベース。
そしてもう一人のギターは可憐で、会場を熱狂させる熱唱をするボーカル。
それらが一人の少女、
友人に連れられて初めて来たガールズバンド限定の音楽フェス、
少女の目は宝石のように輝いており、ただひたすらにステージの上で
――かっこいい……。私もいつか……この人達みたいにバンド、やりたい!
今までやりたいことの一つや二つすらなかった三森はその時見たバンドに憧れて、彼女達のようにバンドを組みたいという夢を抱いた。
――いつしか三年の時が経ち、三森は高校生になっていた。その三年間でバンド仲間は当然見つかるはずもなく、しかしやりたいという気持ちだけが先行して、路上ライブを何度か行ったが歌は歌えず。独学のギターは迫力なんて無いもので誰もが見向きもせず……ただただ、憧れとは程遠い
「今日もチップなし、かあ……」
今日も今日とて昼間から路上ライブをしていたが、通る人は大抵忙しそうで興味すら持ち合わせてくれない。
客が来ないままただ時間だけが過ぎて、諦めを見せる。このままやっても精神的に披露するだけだと悟ると持ち寄った路上用のミニアンプやケーブルなどを片付け、ギターケースを覗いてはぼそりと呟く。人前で弾いても恥ずかしくないほどには上達してはいたが、なかなかどうして誰もが興味を持ってくれておらず、チップ用にと開いたギターケースには空気と替えのティアドロップピックのみ。
人通りはいいのにここまで不人気ではバンドなんてできやしないと、自らを責めて自信を無くしていた。
もう明日には高校生活が始まる。そうなればもっと練習の時間が取れなくなってしまうのではないかと、夢へ続く道に転がる不安が襲い掛かってくる。それに、両親にも『二学期までにバンド結成して、ライブを成功させろ』と言われている状態。
もしそれが達成できなければ、三森は音楽をやめて家業を継がなければならない。
もはや夢へ延びる道は狭く、それでいて窮地に立たされているのだから、是が非でも急がなければならない。
そして高校に入学した彼女は、憧れのバンドの妹と出会いを果たすこととなる。
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