勝原優子の保護期間

 特殊能力者捜査局が優子ゆうこを保護してから数日が過ぎた。

 優子はひとまず特殊能力者捜査局の監視下に置かれる名目の元、丁寧な扱いを受けていた。

勝原かどはらさん、今日から少しの間ですが、よろしくお願いします。」

 特殊能力者捜査局で働く教師が優子に挨拶をした。

特殊能力者捜査局では特殊能力を持ったことで不運な境遇にいる孤児たちを保護する施設を設けている。そこでは高校卒業資格までの教育を受けることができる。

 優子は高校二年の途中でこんな状況になってしまったため、残りの高校二年、三年の分の教育をここで受け、高校卒業資格を取ることになった。

「勝原さん。安心してくださいね。今まで大変だったと思いますが、私含めてここにいる人たちは能力者かそれらに理解のある人たちばかりです。勝原さんの境遇も承知しています。短い間ではありますが仲良くしてくださいね。」

 優子は「はい、お願いします。」と小さな声で返事をした。

「勝原さんは、聞くところによると、教えられたことはすぐに何でもできてしまうと聞きました。ここで教えられるのは勉強だけで、教育としては不完全ですが、もし簡単に何でも覚えられてしまうなら、すぐに卒業してしまうかもしれませんね。とにかく教えられることは教えます。」

 そんなわけで、優子は皆が勉強する教室に行った。

 教室の戸を開けると、席に座っている十名程度の様々な年齢の少年少女が興味津々な様子で優子を見ていた。

「はい、皆さん。少しの間ではありますが、新しく友達が加わります。勝原優子さんです。仲良くしてあげてくださいね。」

 優子はぺこりと頭を下げた。

「よろしくね、勝原さん!」

 一人の明らかにゆったりとした感じの女子生徒が、ゆったりながらも元気に優子に向かって言った。

「私も、よろしくお願いします!」

 もう一人の元気いっぱいの女子生徒も優子に挨拶した。

 優子は、

「よろしくお願いします。」

 と、一人ひとり挨拶を返した。

 優子はここでは一番年上になる。一番近い年代は元気いっぱいの女子生徒だった。それでも二、三歳ほど年下だ。男子生徒もいたが、みんな小学校低学年程度で、優子の年に近い男子生徒はいなかった。

 ここにいるのは皆、特殊能力者だ。

 先生は二人体制。生徒の年代は皆それぞれなので塾のような感じで一人一人違ったレベル、年代が近ければ一緒に授業として受けている。優子はみんなよりも年上で教育も進んだところまで来ているので、みんなと比べるとレベルの高い勉強をすることになる。


 さっそく授業が始まったが、優子は今やっている授業の個所はすべてわかっていたところだった。出題される問題も全問正解。先生は驚きを隠せなかった。優子は高校二年生の途中で学校を抜けたが、教科書は持っていたので、教科書を読んで自分で覚えたのだという。

「じゃあ、高校二年分の勉強はもうマスターしてるんですね…。すごい…。じゃあ、さっそくテストをしましょう。これで合格したら次は高校三年生レベルの授業を進めていきますね。」

 もちろんそのテストも全問正解百点だった。

 これでクラスからは、

「凄すぎます!百点なんて初めて見ました!」

「おねーちゃん、どうやって覚えてるの?」

「神。」

 と、クラスの人たちから賞賛を受けた。

 優子はそういう雰囲気に慣れていなかったから、少しぎこちなく反応してしまう。

 それでも優子は全く顔や態度には出ず、クラスの人たちからは超クールなお姉さんという風に見られていた。

 一日が終わり、自由時間になった時、おっとりした感じの女子生徒が、優子に向かってこう言った。

「勝原さんって、すごい美人だよね。」

 優子は、「え。」という感じでその生徒の方を見た。

「顔もかわいいし、髪も黒くて艶があってきれいだし、細くてスタイルいいし。」

 優子は外見を褒められるのは初めてではなかった。しかし、あまりにも目を光らせながらその生徒が言うので、少し焦った。

 そんなこんなで、授業を受ける日々が続き、もちろん休みも取るが、優子は特別監視下に置かれているという名目なので、期間中は外出はできず、優子自身もあんなことがあったので、そう易々と外に出たいとも思わず、保護施設の中でしばらくずっと過ごしていた。

 授業も順調に進んでいった。教えられたことは完璧に覚えられる。もはや復習では全問正解が当然。テストでも全問正解が当然。


 そうしてこの施設での生活が四か月ほど過ぎた。

 優子は高校卒業資格を取るためのテストに臨み、まるで当然かのように全問正解百点満点でその資格を取得した。

「勝原さんおめでとう!!」

 先生二人とクラス中が祝福した。

「もう勝原さん卒業しちゃうの?」

 と一人の生徒が言った。

 優子の監視期間は三か月だった。なので、四か月がたった今、監視期間は過ぎたため外出も可能。つまり独り立ちも可能だった。

 しかし定義上はまだ十七歳の高校生に相当する少女。一人暮らしも可能ではあり、保護施設で十八まで暮らすのも可能である。

 優子は、

「この施設からは出ようと思うの。短い間だったけどありがとね。」

 と、その生徒に言った。

 皆も「そう…、寂しくなるね…。」という感じだった。

 優子にとってここまで温かな環境は集落以来だったが、同じ年代の人たちにこのように言われるのは初めてだったので、優子は穏やかな気持ちだった。

 優子は保護施設を出ることは決めていたが、今後のことはまだはっきりとは決めかねていた。今度、特殊能力者捜査局局長の斎藤助安さいとうすけやすと本部で面会するという予定が決まったので、その時に優子の今後について話をする予定である。それまではまだ保護施設で過ごすのであった。


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