第2話:とんでもない拾い物だった

「ラズマリーナ、10歳。魔力鑑定から親子の繋がりは皆無。ですが、聖女の資質があるようです」


 教会で親子鑑定をするにあたり魔力鑑定をした。ステータスから名前と年も確証した。


 8歳くらいの体のサイズは、貧民街に住んでいたのなら仕方がないな。昨日の食への執着と食べっぷりからみても、あまり食うものも食ってなかったようだし。ラズマリーナという名前、元々貴族だったのかも知れないな。平民らしくない名前だ。だが、教会の簡易鑑定ではそこまで詳しくは出てこない。大神殿まで行けば、貴族なら両親もわかるかもしれないが、そこまで金も出せない。


 当然、俺との血のつながりは無く、俺の無実は確定されたが、更なる問題が降りかかった。


「え……聖女?」

「ええ。聖魔法保持者で教育次第では治癒魔法や結界、浄化魔法などが使えるようになるはずです」

「治癒…結界…」


 俺は、隣でボケっと突っ立っているラズを見た。とんでもない拾い物だった。


「教会で引き取って、聖女として育てることも出来ますが、どうしますか?」

「あ、ああ。そうか…。その方がいいのかな」

「ええと。彼女の場合、聖魔法持ちだとしてもまだ幼く魔力も少なく安定していませんから、その後聖女としての能力が発揮されない場合、教会の下働きということになります。正直、下働きは孤児たちがいますから、待遇としては良くないんです。もし男爵家で養育をしていただけるとなると、彼女の将来にとってはその方が良いのですが」

「男爵令嬢として、か」

「いえ。たとえ下働きのメイドとしてでもきちんと生活をし、毎日食事をいただき体調を整え、行儀作法や読み書き、計算などできるようになれば、市井に出ても生きていけるでしょう。孤児の育成、引き取りは、国でも推奨されていますし。もちろん引き取られた以上は、それ相応の責任と定期的な報告も課せられますが。聖女教育は15歳になってから、教会に通っていただくことも出来ますよ。残念ですが、貧民の救済措置として教会はなかなか手をつけられなくてですね」


 教会の孤児院は当然、貴族と王国からの援助で成り立っている。貧民の救済のために、教会が全ての子供を引き受けていては、すぐにも破綻するのが目に見えているからだ。残念ながら、平民からも貴族からも貧民に対する救済は多くない。勿論、国と領地の方針で貧民街の炊き出しなどの救済処置はとっているが、追い付いていないのが実情だ。手足を失って働けなくなった者、縁戚を失った老人、罪を犯して罰せられた者など、貧民に落ちる理由は様々だが、救済院が両手を広げても、こぼれ落ちる人は子供だけでなく、まだまだたくさんいるのだ。


「なるほど…」

「現在の彼女は、10歳ということもあって孤児院にお世話になることになります。そこで文字の読み書きと簡単な計算は学べますが、聖女としての教育は最低でも教文が読め、魔法が使えることが前提になりますから」

「なるほど。それを男爵家で学ばせるということか」


 聖女を育てたとなれば、ナンチャッテ男爵家の覚えもめでたく箔もつく。孤児の救済をして、良い貴族として認められるだろうし、ラズが聖女になれば、当然男爵以上の爵位も夢ではない。まあ、俺自身は別に爵位にこだわりはないのだが、それだけでもドルシネアを捕まえておく事はできるかもしれない。実家の商会は貴族のつながりを持ちたがっているから、陞爵はありがたい。


「ねえ、アタシ役に立つ?」

「勉強すれば聖女になれるらしいぞ。すごいなお前」

「すごいんだ?」

「ああ、すごい。誰もが持ってる力でもないからな」

「じゃあ、あの女に渡した銀貨数枚分はお返ししたことになりそう?」

「え?」

「あの人、ロシナンテさん騙してお金とったでしょう?申し訳ないなって思ったの。おじさんいい人っぽいし。あの女とアタシ、親子じゃないんだけど、時々こうやって貴族に取り入ってたんだ」

「な…、じゃあ」

「ごめんね」


 こいつ、すでに詐欺師だったのか。


「普通はね、お貴族様ってこういうのシューブンになるから、お金渡して「はい、さよなら」ってするんだよ。中には怒って暴力振るったり、奴隷にしようとしたり、犯して食べたり、娼館に売りつけようとする奴らもいるけどさ。アタシ、誤魔化しが得意だし逃げ足も早いから、また貧民街に戻って同じこと繰り返すの。でも、あったかいお風呂に入れてくれたり、ベッドを用意してくれたり、ご飯をくれる人は今までいなかったから」

「いや、ちょっと待て。犯して食べるって、それは人じゃないだろ!?オークでもいるのか!?」

「お金分、ちゃんと働くから。その聖女とかになればいいんだよね?」


 桃色の髪と桃色の瞳。聖女様と同じ色合いのこの子供は、わかっていないのだろうか。金を受け取ったのは大人の女の方で、自分自身じゃないということを。女は金をもらって逃げ、この子供の行く末など知ったことじゃないのだろう。売られようが、殺されようが。なのにラズは、女が受け取った金の分は働くという。これが聖女の気質で無くてなんだというのか。


 ……まあ、単なる馬鹿なのかもしれんが。


「聖女になるならないは今の所保留だが、お前は、俺の子になれ」

「えっ?」

「神官様、ラズを養女にします。ナンチャッテ男爵家で養育し、15になった暁にはもう一度聖女鑑定に参りますので、承認をお願いします」

「ああ、よかった。ありがとうございます。ナンチャッテ男爵様に神のご加護を」


 神官もホッとして頬を緩めた。偽善だとしても、一人だけでも子供が救われるのなら嬉しいのだ。とはいえ、責任は重大だ。この詐欺師紛いを強制しなくてはならないからな。まずは役所で手続きを取ろう。


 こうしてラズは俺の養女になった。ドルシネアが了承してくれることを願う。



 ……心底、本当に。なんか墓穴掘ってる気もするが…。


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