『山猫軒・リベンジマッチ』

日付:20XX年某月某日

場所:文芸部部室

議題:宮沢賢治『注文の多い料理店』におけるオペレーションの欠陥について

出席者:一ノ瀬詩織(部長)、二階堂玲(副部長)、三田村宙、四方田萌


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一ノ瀬「さあ、皆! 本日の議題は、宮沢賢治が遺した、あまりにも有名で、そして少し奇妙な童話……『注文の多い料理店』よ!」


四方田「あ、知ってます! なんか、変なレストランに入ったら、逆に自分たちが食べられそうになる話ですよね!」


一ノ瀬「その通り! 二人の若い紳士が山奥で迷い、西洋料理店『山猫軒』を見つける。しかし、扉を開けるたびに『鉄砲と弾丸をここへ置いてください』『クリームを顔や手足にすっかり塗ってください』といった、奇妙な注文が次々と出される。そして最後に、自分たちが『料理』そのものであることに気づき、ほうほうの体で逃げ出す……というあらすじね」


二階堂「有名なお話ですね。教訓めいた物語としてよく取り上げられます」


一ノ瀬「ええ。でも、私はずっと疑問だったの。この物語、山猫軒の親分の『手際』が悪すぎないかしら?」


四方田「え? どういうことですか?」


一ノ瀬「だって、考えてもみて。『塩をよくもみ込んでください』なんて、どう考えても下ごしらえじゃない! あんなに分かりやすく、あからさまな指示を出してしまったから、紳士たちも途中で気づいたのよ。これは、あまりにも杜撰なオペレーションよ! 顧客満足度ならぬ、顧客捕獲率を全く考慮していないわ!」


二階堂「……なるほど。言われてみれば、犯行計画としては稚拙ですね。一つひとつの指示が、犯人の意図を雄弁に物語ってしまっている。証拠を自ら提示しているようなものです」


三田村「……ユーザーインターフェースの設計的欠陥。コマンドプロンプトが抽象化されておらず、被験者にシステムの最終目的を早期に推察させた。ソーシャルハッキングとしては初歩的なミス」


四方田「確かに! もうちょっと上手くやれば、バレなかったかもしれないですよね! 『お肌がツルツルになります』とか言ってクリーム塗らせればいいのに!」


一ノ瀬「そうよ、四方田さん! 皆、素晴らしいわ! この物語の結末は、山猫軒のホスピタリティ不足が招いた、完全なる人為的ミスなのよ! そこで、提案します!」


(一ノ瀬、ぱん! と手を打ち、部員たちを見回す)


一ノ瀬「題して、『山猫軒・リベンジマッチ』! あの物語を、私たちで書き直しましょう! ただし、条件があるわ」


(一ノ瀬、人差し指を立てる)


一ノ瀬「一つ、物語のスタートは、二番目の扉に書かれていた『注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。』の次の場面からとします。二つ、最後まで紳士たちに怪しまれないように、作中の指示を、より巧妙で、説得力のあるものに変更すること。そして三つ、結末は、紳士たちが無事に山猫軒の親分に食べられるものとすること! 発表は、一週間後よ!」


二階堂「……つまり、被害者が自ら進んで罠にかかる、完璧な捕獲計画を立案しろ、ということですか。面白い。心理誘導のケーススタディとして、挑戦してみましょう」


四方田「えーっ! バッドエンド確定の書き直しですか!? でも、どうやってバレないようにするか考えるの、めっちゃ楽しそう! やります!」


三田村「……了解。対象の警戒心を抑制し、指定された結末へと誘導する最適化された指示系統の構築。シミュレーションを開始する」


一ノ瀬「いいわね、皆! そうこなくっちゃ! 私はもちろん、お客様が最高の気分でメインディッシュになれるような、究極のおもてなしを書いてみせるわ! さあ、創作開始よ!」


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議事録担当・書記(四方田)追記:

今週の課題:人間を美味しくいただくための、バレない下ごしらえ方法を考えよ。……うちの文芸部、だんだんサイコパスじみてきた気がする(笑)。

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