第19話 借《か》りた、いのち



 おこった俊一しゅんいちが、大きな声で言いました。


「なに言ってるんだい。それじゃすみれは、うしやブタや、にわとりなんかを、べたことないのかよ。サバやアジや、それにサンマも、食べたことないってのかい。なあ!」


 せっかく、すみれのためにってきたのに。

 おれいを言うどころか、もんくを言われたと思ったみたいです。


「だって、おにくやおさかなは、おみせってるんだもの……」


「すみれさん」


 雪江ゆきえさんが、やさしく言いました。


肉屋にくやさんのお肉も、魚屋さかなやさんのお魚も、もともとは、生きていた動物どうぶつなのですよ。

 人間にんげんは、その動物どうぶつ植物しょくぶつをたべて、大きくなるんです。

 このお魚も山菜さんさいも、わたしたちに食べられることで、ちゃんとやくにたっているんですよ」


「でも、ほかのいのちをとって生きるなんて、とってもいや!」


「命をとるなんて、そんなこと言ってはいけません。もともと命というものは、人間にんげんなんかが、れるものじゃないんです。わたしたちは、動物どうぶつ植物しょくぶつの命を、りているんです。

 たすけてもらっているんですよ。ほんとうなら、それはまた、もとにかえさなければならないものなのです。

 人間にんげんぬと、そのからだを、植物やちいさな生きものが利用りようします。その植物や生きものを、もっと大きな動物が食べるのです。

 そしてまた、人間が食べる。そうして命はめぐっていくんですよ」


「命がめぐっていく?」


「そう。その、ぐるぐるとまわる命のを、どこかでこわしてしまうと、けっきょくは、こわしたものにかえっていきます。

 もりがなくなれば、カタクリの花がかないって言ったでしょう? それとおなじように、ありがとうと思う心をなくした、恩知おんしらずの命の取りっぱなしは、いずれは、人間にかえっていくものなのですよ」


 雪江さんは、いっしょうけんめいに言いました。

 すみれにも、そのきもちはわかります。


 すみれたちは、お魚の命をりたのです。

 それを食べないということは、借りっぱなしにすることです。


 そっちのほうが、よっぽど悪いことなのだと、すみれは気がつきました。


「おいおい、なにをむずかしいこと言ってるんだ。人間は、おいしいと思うから食べるんだよ。さあ、すみれちゃん。この魚はうまいぞぉ!」


 おじいちゃんが、かおじゅうにわらいをうかべて言いました。


 それがきっかけで、まじめな顔になっていた逡一と夢子ゆめこが、また、ぱくぱくと食べはじめました。


 すみれも、思いきって、魚のつくだを口にほうりこみました。


「おいしい!」


 それは、ほんとうに、おいしかったのです。

 あまくてやわらかく、ほねまで食べられます。


「な、わしの言ったとおりだろう。はやくたべて、おおまつりに行きなさい」


 おじいちゃんが、まんぞくそうに言いました。


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