第10話 おとうさんの夢の中



 すみれはここが、おとうさんのゆめの中だということに気がつきました。


 ほんとうの田舎いなかは、わってしまいました。


 だからほんとうの田舎を見て。

 夢の世界せかいの田舎をそうぞうするってむりです。


  だって、すみれがもっと小さいころ、はじめて田舎に行ったときでも、そこにはすでに、工場こうじょうがいっぱいあったのですから。


「さあ、おいでよ」


 すみれがこまってしまったこともらずに、逡一はどんどんいえなかに入っていきます。


 玄関げんかんをガラガラとあけて、大きなこえで「かあさん!」とびました。


 すると、つちでできた土間どまというところに、逡一のおかあさんがあらわれました。


「あ、おばあ……」


 すみれは、もうすこしで「おばあちゃん」とぶところでした。


 だってその女の人。

 すみれの大好だいすきな、おばあちゃんそっくりだったのです。


 だけど、かみのはぜんぜんしろくなくて。

 かおのしわも、まったくありません。


 ちょうど、すみれのおかあさんくらいに見えます。


「すみれ、ここは夢の世界だ。だからおとうさんが小学生だったら、おばあちゃんもまだわかいはずだろう? ここはむかしの世界なんだよ」


 プップからとびおりたトッピが、すぐそばで言いました。


むかしの?」


 すみれは、おもわずトッピにきました。


 すると逡一と、わかいおばあちゃんの雪江ゆきえさんが、だれと話しているんだろうと、ふしぎそうなかおになりました。


「あ、ごめんなさい。わたしへんなんです。見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたりするんです」


 すみれは口ごもりながら、ふたりに言いました。


「おじょうさん。もしかしてあなたは、倉口くらくちさんのおりあいかしら?」


 雪江ゆきえおばあちゃんが、知らない人の名前を言いました。


「すみれさん、わしじゃよ。倉口浅志くらくちあさしとは、わしが変装へんそうしたすがたなんじゃ」


 すかさずランペじいが、えらそうに言いました。


 すみれは、ひるまに公園こうえんで出あったおじいさんを思いだしました。

 ああ、あれがそうかと思いました。


「え、ええ。倉口くらくちさんの、しんせきの子どもなんです」


 すみれは、ほんとうのことを言いませんでした。


 ここがおとうさんの、子どものころの夢の中だとすれば……。


 ほんとうなら、おとうさんの子どものすみれは、まだ生まれていないはずです。


 それなら、べつの人間にんげんのふりをしたほうがいいと思いました。


「それじゃ、やっぱりうらないいとかできるのね」


「ええ、まあ……」


 すみれは、雪江おばあちゃんにウソをつくのがいやでした。


 でも、なんとか話をあわせないと、へんに思われてしまいます。


 しかたがないので、こころの中で、ごめんなさいとあやまりました。


「そう! それじゃあ、この鬼淵村おにぶちむらまもるために、お手伝てつだいにいらしたのね。だって倉口さんは、そのために、村においでになられたのだもの」


 雪江さんは、ひとりでなっとくしています。


 すみれはよこ目で、じろっとランペじいをにらみつけました。


「そうとわかれば、さっそく電話でんわしなきゃ」


 雪江さんは、土間どまのおくにある、すみれが見たこともない、まっくろな電話機でんわきをゆびさしました。


 それには、プッシュ・ボタンなんかついていません。

 タッチパネルでうごかす、スマホでもありません。


 かわりに、いくつもあなのあいたくろ円盤えんばんがついています。

 雪江さんは、その円盤えんばんあなにゆびをいれて、なんどもぐるぐるとまわしました。


「もしもし……」


「はい。倉口くらくちじゃが」


 雪江さんが話をすると、トッピのむねのランペじいが返事へんじをしました。


 それを見ていたすみれは、おもわずふき出しそうになってしまいました。


「ねえ。今日きょう、とまっていきなよ」


 逡一が、もじもじしながら言いました。

 どうやら、すみれのことをったみたいです。


 おとうさんに気に入られるなんて……。

 すみれは、ますますへんなきぶんになってしまいました。


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