第7話 つよしとの出会《であ》い。



 レンゲばたけのむこうは、土手どてになっています。

 土手の上には、道路どうろがあります。


 そして土手の上を、子どもたちが大きな声をあげながらはしってきます。


 子どもたちは、みんな男の子ばかりです。

 手に手に、ぼうきれやたけのきれはしをっています。


 その中のひとりが、レンゲ畑の中のすみれを見つけました。


「あ、こっちにくる」


 すみれは、のんきに言いました。

 ここが、おとうさんの夢の中だということを、わすれていたのです。


 やがて男の子たちは、すみれの前にやってきました。

 レンゲばたけの中をあるいてきたので、はたけはめちゃめちゃです。


「おまえ、だれだ?」


 あたまの毛をみじかくった男の子が、すみれにきました。


 男の子は、よごれた白色しろいろのランニングシャツと、くろはんズボンをはいています。


 足には、ゴムで作られたぞうりをはいていました。


「レディに名前なまえを聞くときは、じぶんから言うものよ!」


 男の子の失礼しつれいなたいどに、すみれもまけてはいません。


 それにトッピの前では、弱虫よわむしなところを見せたくない。

 そういう気持きもちちも、ちょっぴりありました。


「なんだ、おまえ。わかんないこと言うなよ。そのレ、デなんとかって、いったいなんだ?」


 男の子は、レディということばをりませんでした。

 おどろいたすみれは、もういちど言いました。


「レディっていったら、レディじゃない。あなたって、じょうしきないのね! それより、あなたの名前なまえを、はやくいいなさいよ」


「おれか? おれは、つよし。そうか、おまえ都会とかいからきたんだな。その、ちゃらちゃらしたかっこう、まえほんかなにかで、見たことがある!」


 つよしはすみれのすがたを、あたまさきからあしの先まで、じっくりとながめました。


 すみれは白のブラウスと、あかくてひざの上までのスカートをはいています。

 なぜか夢に入ったとたん、お気に入りの洋服ようふくにきがえていたのでした。


 だけどそれは、つよしが言うほど、おしゃれでも、めずらしいファッションでもないはず。


「わたしは、すみれ。星野ほしのすみれっていうの。ところで、ここはどこなの?」


「おい、ここはどこ、だってさ」


 つよしは、なかまの男の子にむかって、ちゃかしたように言いました。

 すると、つよしのうしろにならんでいる男の子たちが、大きな声でわらいました。


「おい、じぶんのいるところがわからないなんて、すごくへんだぞ。もしかしたら、家出いえでかもしれない。駐在ちゅうざいさんにらせようぜ」


 駐在さんって、たしか『おまわりさん』のことです。

 それくらい、すみれも知っています。


 つよしのかんがえに、みんなが「そうだ、そうだ」と、さんせいしました。


「まってよ。家出なんかじゃないわ。わたし、ちゃんとした目的もくてきがあって、ここにやってきたの」


 すみれは、あわててトッピを見ました。


 するとトッピは、ちいさくかたをすくめ、『どうしようもない』といったかんじじで見ています。


 かわりにランペじいが、ものしりがおで言いました。


「夢の世界せかいの人には、わしらは見えないんじゃよ。だからすみれさんだけが、ここにおるのとおんなじじゃ。もちろん、わしらのこえも聞こえんよ」


「そんなあ……」


 すみれは、こまってしまいました。


「なに、ひとりごと言ってるんだ。こいつ病気びょうきかもしんないぞ」


「つかまえろ、つよし。つかまえて、病院びょういんにつれていくんだ!」


 うしろの男の子が、つよしをはやしたてました。


 つよしもその気になって、じりじりとちかづいてきます。


 トッピが、するっとすみれの前に出ました。

 そして近づいてくるつよしの足を、おもいっきりっぱりました。


 バタッ!


 つよしは、せなかから、レンゲばたけにたおれてしまいました。


「いてて……よくも、やったな!」


 つよしはすぐにきあがり、すごくおこりはじめました。


「わたしじゃ、ないわよ」


 すみれは、いっしょうけんめいに、いいわけをしました。


 でも、つよしたちには、トッピは見えません。

 すみれが足をひっぱったと思っても、それはしかたがないことです。


「みんな。こいつ、なまいきだからかしちゃえ!」


 うわーっ!


 男の子たちは、いっせいにすみれにびかかりました。


 トッピやプップは、男の子たちをめようとしています。

 そのせいで、なげばされた子もいます。


 でも男の子たちのほうが、かずおおすぎました。

 ついに、つよしの手が、すみれのふくをつかみました。


「そら、つかまえたぞ。駐在ちゅうざいさんにれていくぞ!」


 警察けいさつに連れていかれたら、すみれは、どうしていいかわかりません。

 だって、ここは夢の世界なのですから。


 すみれはこまってしまって、目になみだがあふれてきました。


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