代わる代わるに望むセカイ

木曽 リヒト

雨は出会いの季節らしい

第1話 音のない雨 

とある雨の降る日、猫を拾った。

 雨音は強く、うるさく鳴り続ける、そんな帰り道に一つのダンボールが目に入った。妙に気になって中をのぞくと、それが中にあった、それはダンボールに詰められ、今にも力尽きてしまいそうなほどに、衰弱しきっている猫だった。

「大丈夫?」

 そう聞くと、ん、な、と耳を澄まさなければ聞こえないほどに、小さく弱々しい声で鳴いた。僕が慌てて急いで抱きかかえると。 雨音が止んだ。

 雨が止んだ訳では無い、雨粒は空中に静止していて、触れてみるとそれはしっかりとした、液体の水のままだった。

「おやおや、珍しいこともあるものだ」

 突然声が響いた、その声の主の方向を見ると少女が一人立っていた。

「君は?」

「こちらのほうが聞きたいね」

 間髪入れずに言われた、まあ言ってることは正しい、人に聞く前にまず自分からとはよく言われたものだろう。

「僕は、風矢かざや

「そうか」

 彼女は簡素に応えた。

「え?」

「なんだい」

「君の名前は?」

「答える必要があるのかな、もう会うこともないだろうよ」

「えぇ」

 答えたのに、言った僕が馬鹿みたいじゃないか、そんな僕の考えに気づいたのか、彼女がこう言い出した。

「まあ、もしまた会ったなら、そのときに教えてあげようじゃないか」

「ありがとう?」

「ま、いいってことよ」

 いったい自分はなにをやってるんだろう。

「さて、本題に移ろ_そいつはなんだ?」

 彼女が自分の方を指さした、いや違う、自分の胸のあたり、抱えている猫のことを指さしていた。

「そうだった」

 急な出来事が続きすぎて忘れていた、猫を抱えていたことを、やばいどうしよう、そう思ったが猫も完全に静止していた。

「猫か」

 いつの間にか、彼女が間近に近づいていた。

「衰弱しきっているな、だが今静止している状態にあるということは、死ぬことはないだろう」

「どういうこと?」

「まあいいか、説明してやろう、この世界に特異な性質や能力を持った生物が存在することは_その顔を見れば分かる、知らないようだな」

 くそ、こいつ読心術が使えるのか。

「そんなわけないだろ、君は表情がわかりやすいんだよ、顔にすぐ出ているぞ」

 そんなわけないだろ、これで言われたのは人生で大体5回目だぞ、そんなわけないって。

「まあ、言うなれば特殊能力を持って生まれる生物がいるということだな、そして私もその一人だ、私の能力はな、もう見ているだろうが、例えば…雨が降っている間、自分以外の生物と物体を静止させられることができる」

 なんか、夢みたいな能力だなというのが第一印象だった、だけど疑問が湧いてきた。

「なんで僕は動けてるんだ?」

「それは私も疑問だったよ、だから少しだけ検査させてくれ」

 そう言いつつ、彼女が僕の腕から猫を取り出した、

次の瞬間、彼女が間近で僕の顔を覗き込んでいた。

「やっと動き出したな」

「えーと?」

「君が急に止まったんだよ、まあ動かなかったから検査しやすかったんだが、お前結構、筋肉ないんだな」

 気づけば、さっき彼女が僕の腕から取り出したはずの猫が、また僕の腕の中に抱えられていた。

「猫のことなら心配しなくていい、治療しておいたからな、まあ動けるようになったら一応、すぐ動物病院に連れて行け」

 うーん、えーとまてまて雨の日に猫が捨てられていて、それを拾ったら少女に出会い、しかも超能力者で、猫の治療もできる。 うん、話がよくできている、たぶん夢だな、早く目覚めよう。

「なんか勝手に納得してるとこ悪いんだが、ここは現実だ」

 なんだって、やはりこいつ読心術が。

「はいはい天丼天丼、もうそれでいいよ」

「そういえば、なぜこんなに距離が近いので?」

「君が急に止まって、ちょうどいいから色々体を見せてもらって、猫を腕に戻したら動いた」

 猫を腕に?これは何かありそうだ。

「うん、まあここまでかな、それじゃ」

「え、急ですね」

「こっちにも事情があってね、長居は良くないんだ、運が良ければまた会おう」

 そう言うと彼女はどこかへ去っていった、追う理由もないし、しばらくこの状態だと思い出し、言われた通り動物病院へと向かった、10分くらい経った頃、雲が晴れ、光が差し込んだ。

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