【第三十五章】 終わりのカウントダウン

 日が暮れかけた校舎に、赤みを帯びた西日が差し込んでいた。新聞部の展示室には、三人の影だけが静かに揺れていた。

「……猶予は一週間。たった、それだけ」

九条さやかは壁にもたれながら、手元のスマートフォンで時計を見やった。午後五時十五分。時間は容赦なく過ぎていく。

「一週間って……」

 ミユが息を呑む。

「なにか期限でもついたんですか?」

「正式に“発行停止”を通告されたわ。校内新聞も、展示も、すべて。このまま騒ぎが続けば……ね」

 いぶきが顔を上げた。その眼差しは真っ直ぐで、揺るぎがなかった。

「さやか先輩、それは……アヤメさんのことが原因ですか」

「ええ。彼女が命を落としたその瞬間から、私たちが抱えているのはもう“部活動”の範囲じゃなくなった。校長も理事会もそれを理解してる。だからこそ、抑え込もうとしてる。表沙汰にせずに、静かに幕を引きたいのよ」

「でも……そんなの、間違ってる」

ミユが低くつぶやいた。

「事件をなかったことにすれば、確かに表面上は静かになるかもしれない。けど、沈黙って、真実を殺すってことなんだよね。……私は、それがいちばん怖い」

「わかってる。だから、私は逆らった。結果、一週間。タイムリミットよ」

さやかは二人の方へ歩み寄り、まるで儀式のように声を落とした。

「いぶき。ミユ。お願い、協力して」

「もちろんです」

いぶきが即答する。

「俺たちはもう、ここまで来た。アヤメさんも、ルカさんも、ただ“いなくなった”じゃ終われない」

「……はい。絶対に、見つけましょう。真実を」

ミユも続く。

 窓の外では、グラウンドに吹く風が旗を揺らしていた。

 教室のどこかで、誰かがピアノの音を出したような気がした。

 誰もいないはずの講堂から――聴き覚えのある旋律が、遠くかすかに風に乗って聞こえた気がした。

 それは、ルカの歌だった。

 学院祭の熱気の中で、確実に何かが終わりに近づきつつあった。

 残された時間は、あと七日。

 その先にあるのは、光か、闇か。

答えはまだ、誰にもわからなかった。

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