第16話 意図しない事態
「なんでお前がここにいるんだよ!!」
今までの疲れがなかったかのように、康平は靴を履いたままズシズシとレイスの方へ歩み寄る。
「ふふ、汚いじゃないか。靴脱ぎなよ」
それに対しレイスは随分と余裕の表情だ。
「出てけ。今すぐに……出て行かないのなら!」
康平がレイスの胸ぐらを掴もうとする。
パンッ!!
その瞬間、玄関に痛快な音が響いた。
「っ……?」
康平は数秒してから頬に鈍い痛みがあるのを感じた。
呆然としながらも痛みの元凶を探す。
すると、鬼の形相をした母がそこにはいた。
「……母、さん?」
「康平!家族になんてことを言うの!零に謝りなさい!」
母の怒る様子を見て、レイスはニヤけていた。
それを見て、康平は全てを察した。
「……零、悪かった。それとあとで話がある。用が済んだら俺の部屋に来い」
康平は弁当箱と水筒を置いて自室に戻って行った。
「……どうしたのよあの子」
「部活で疲れてるんでしょう。大丈夫、すぐ元通りになるよ」
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10分後。
康平の自室にレイスが布団に座り込んでいた。
「にしても、随分と汚い部屋だね。病気がうつりそうだ」
「いいから質問に答えろ。俺の母さんになにをした」
康平は椅子に腰掛け、にやけ面のレイスを睨みつける。
「何って?簡単なことだよ。認識を歪ませたんだ。君の母の記憶に私が割り込めるようにね」
「転校もそれでか……いい加減にしろよ。俺をバカにしやがって」
「魔力に抵抗がないから楽だったよ。でも安心しなよ。脳に障害は…」
康平は部屋の隅に置いてあった埃だらけのバットを取り出す。
「…こんなところで戦う気かい?やめておきなよ。君が苦しむだけだ」
「うるさい。実害が出てんだ。半殺しにしてでもこんなことすぐやめさせてやる」
このときの康平は全く冷静では無かった。
自分がもっとも慕う唯一の家族を好き勝手にされたことが許せなかったのだ。
「お前も力があるなら、抵抗してみろ!!」
「!」
康平はバットを思い切り振り下ろした。
レイスはそれを、完全に見切り回避、しゃがみ込んだまま康平の腹を拳で打ち抜いた。
「ガッ!!」
殴り飛ばされた康平は部屋の壁に激突、棚の本の数々がなだれ落ち、積んであったゲームが崩落した。
康平の肩に血が垂れる。
「薄々勘づいていたが、君に力が無いこともこれで分かった。終わりだ」
「……随分と、力がしょぼいな。お前舐めてんのか。それとも…!」
康平はバットを握り直し、再びレイスに飛びかかる。
「ものわかりの悪いやつ!」
バットを横に振り切り、レイスはしゃがみ回避。
それに合わせ右手の拳を握りしめる。
「そこ!」
「あぐっ」
回避したのを読み康平はレイスの顎を蹴り上げた。
しかし体勢が悪く、蹴りはうまく決まらず尻もちをついた。
「このガキ!」
「誰が!!」
康平はバットを宙に舞うレイスに思い切りバットを投げつける。
しかし、レイスは右腕を犠牲にそれを防御、かかと落としが康平の左肩にめり込んだ!!
「があああ!!!」
その後も、母が止めに入り込むまでの2分間康平とレイスの取っ組み合いは続いた。
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「康平!女の子相手になんてことしてるの!」
「零も!康平頭から血が出てるわよ!何かあったらどうするの!!」
「……」
「……」
母に説教をする間、康平とレイスは互いに睨み合っていた。
部屋の壁には血がへばりついていて、本棚は壊れ、ゲーム機はぐしゃぐしゃに潰れている。
木製のバットはバキバキに折れていて、喧嘩のせい惨さがにじみ出ている。
「悪かった、零。ムキになりすぎた」
「私こそごめんね、康平くん」
2人は言葉だけは繕い、立ち上がって部屋の片付けを始めた。
しかし目には怒りや憎しみが残り、空気は最悪だ。
「……」
母はそれ以上は何も言わず部屋を出た。
「……レイス、お前今力ないんだな。いつから嘘をついていた?」
「君に言うわけないだろ。適切なタイミングで殺す予定だったが順序が変わりそうだ」
「あっそ」
片付けが終わったあと、レイスは母の寝室に行った。
レイスが作った設定(認識改変)では母の部屋が零の寝室ということだろう。
「……クソッタレ」
かくして、レイスとの共同生活は最悪の形で幕を開けた。
次回に続く
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