蜷局を巻いていても

@imimnasi

第一話 一歩ずつ

 朝目を覚ますとまずスマホを触る。それが俺のモーニングルーティーンの第一部だ。しかし、それは俺だけではなく他の人もやっているのでないか と半ば強引に自分の都合のいいように結論付ける。だから自分はこの生活をやめないし、この後の自慰行為も欠かさずする。これもまた一部なのだ。世界は広いのだからこれくらいいいだろうと罪悪感を抱えて、小さい快感に襲われる。さて、準備をしよう。学校は休まないでと言われている家族の約束は守っている。すると、一件の未読メッセージがあった。昨晩、寝落ちをしたせいか内容を確認しなかったのかななどと思って開くと、さっき来ていたメッセージだった。目を通すと、

「投資に興味はないですか!!今ならなんと...」

なんだ、よくある詐欺の広告に近いやつだった。未読を既読にしてこんな時間と焦って家を出る。

 大学というのは面白いもので、高校とは違い自由な服装、自由なアクセサリー、自由な時間割の設定。華のようだ!とおもうかもしれないが、実際は劣等感が渦を巻いている。高額なアクセサリー、車、財布。収入源がどこなのかが本当に気になる。そんなことを横目にできず、自分も劣等感に苛まれ、数年前に戻りたいという思いが募る。しかし、悪いことばかりではない。そう。いいことだってあるのだ。それが..とまだ見つけられていない。いつも地元に帰りたいと思っている。

 ここはですねー。そこ!話すなら外で話してください!教授の怒号が教室を包む。

しかし、怒られても話を続ける。しかもスマホでゲームをしながらだ。家でやれよ。と思ったがそれが心の中でとどまらず、口に出てしまった。すると、当然その三人組は睨みつけてくる。

「はい?なんかいいました」

俺はとっさに聞こえないふりをする。「なんだこいつ」と舌打ちをされ、嘲笑された。あー帰りたいという思いが残りの85分、頭を駆け巡った。

「いじょうで終わります」

そういったと同時に学生は一気に飛び出る。じゃーいくかと用意していると、後ろからコツンとつかれた。まさか!とおもってびくびくしながら

「あははーさっきはごめんなさい」と言って振り返ると、

「違う違う笑」と言ったのは、煌びやかなアクセサリーに包まれた高身長の女だった。

「俺になんか用ですか」

「あるある!ありまくるよ!さっきのすっきりしたよ!」

「さっきの?」

「怒鳴ってたでしょ!うるさい人たちに!」

どうやら聞き間違えをしているようだった。さっきの心の漏れを怒鳴っていたと勘違いしているようだ。

「いやー関心するよー。あ!よかったら昼一緒にたべない?」

なんとそのいかにも遊んでそうな女性からお誘いされたのだ。むふふ。そんな展開も悪くないな。ムフフ。いやまてよ、ここで行ってしまうともしかしたら余裕がないように見えてしまうかもしれない。一度断りを入れよう。

「漏れてるよ。心の声」


 「きみ、さっきのどういうことかな」その人の顔がさっきよりも歪んでいるのがわかる。そう。怒っているのだ。

「すみません。まさか漏れているとは思いませんでした。」

「ま、いいけどさ。であと、君友達は?」

「見ての通り、いませんよ。派手な人しかいませんし、俺とは系統が違うっていうか。いや作りたいんですよ?でも、思っていた大学生活とはちょっとちがって、理想とのギャップですよね。あはは。」

少ししゃべりすぎたと思って女性を見ると、その表情が少し緩んでいるように見えた。

「陰キャなだけでしょ。」

と痛いことを言われたが、その人の顔はさっきの顔とは別のものになっていた。

「まー色々なことがあるよね。最初だし。やってみないとわからないことも多いよ、青年。またなんかあったら私に相談しな。一応これ。」

そういわれて見せてきたスマホの画面にはインスタグラムのQRコードがあった。そこには あかね と書かれていた。

「じゃあ、また」

そういった彼女の背中が大きく見え、大学の木々が揺れて葉がその背中についていた。


 

 

 

 

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