虫歯

もこまり

虫歯

痛っ!!痛い!!


やっぱり駄目だ。集中出来ない。

なんだかモゾモゾする。それが痛い。神経にさわるのだ。


洋司は仕事の手を止め、歯科医院へ行くことにする。

かかりつけの歯科医院など無い。どこでもいい。とりあえず会社に一番近そうな、寂れた歯科医院に駆け込む。


「は〜い、では口を大きく開けて〜」

ギャル上がりに見える歯科衛生士が、なぜか偉そうに言う。

お前、歯科医じゃないだろうが!!

心の中でツッコミながら、顎が外れそうなぐらい口を大きく開けると、無言で歯科医が覗き込む。

……まぶしい。


歯科用ルーペとマスクで顔の見えない歯科医が、手際よくチェックしていく。エアーをかけてしみないか、歯を叩いてひびがないか…。


「よかったね〜。虫歯、あるよ。」

ギャルがニヤリ。イラッとくる俺。

歯科医がドリルを使う。既存の詰め物を外すためだ。俺は痛いのはイヤだ!!思わず手に汗握る。


ウィイーン ウィイーン


しばらくの沈黙のあと、なにかをつまんで引きだしている。その引き抜く感覚が非常に気持ち悪い。


ズルズル… ズルズル…


引き抜くとき、奥の神経にさわる。頼む!!慎重にやってくれよ。


ズルズル… ズルズル… ズボッ


「はい!!取れました!!」

スパッとギャルが言う。

いまの感覚はなんだったんだろう。

ズルズル…ズボッて…

問いかけようとするが声が出ない。

あれ?!なぜ?!


歯科医は、構わず次の歯に着手する。

無言のままだ。


ウィイーン ウィイーン


ガサガサ…ガサガサ…

今度は乾いた音がする。


これまたピンセットでなにかをつまみ上げている。わずかばかりの痛み。

目を凝らすが、ガーゼに阻まれてぼんやりとしか見えない。

茶色い? 割と大きい?

折り畳まれているであろうその物。

ギャルがピンセットで丁寧に拡げているらしい。

なんなんだ?

しかも、なんとなく口の中が粉っぽい。うがいが出来ないのか!!この歯科医院は。

体を起こそうにも、なぜか体が動かない。おい!!うがいをさせろ!!

声が出ない。


「次の歯、行きま〜す」

めちゃくちゃ軽い感じでギャルが言う。


ウィイーン ウィイーン


今度はなんだ?

ガーゼ越しに見ると、一本の歯から、次から次へと米粒大の物がつまみ上げられている。

痛くはないが、なんだあれは。


「はい、次〜!!」

威勢よくギャルが言う。


ウィイーン ウィイーン


これまた最初の歯と同じく、なにかを引き出しているようだ。

ただ、今回は所々で引っ掛かりを生じる。

「先生、頑張って〜」とギャル。


所々、激痛が走る。脂汗をかき、足の裏がこむら返りを起こしそうになる。

麻酔はどうなっているんだ!!

歯の痛みは感じるのに、なぜ声が出ない!!なぜ体を動かせない!!


ボロボロ… ボロボロ…


苦労の末、「それ」は引き出されたものの、俺の舌にはヒジキのような物がいくつか転がっている感じがする。

おい!!取り除いてくれよコレ!!

むちゃくちゃ不快なんだが。


俺の心の声は無視され…

「お兄さん、疲れた?これで最後だよ。あはははは」


ガーゼ越しに強い光が見える。何度も歯科医の頭がいったり来たりして、光が遮られる。


やがて、「こんなに成長していると…」「いっそのこと抜いて…」

所々、ギャルのひそひそ声が聞こえる。歯科医に耳打ちしているらしい。


成長?なんのこった。

……抜く?!抜くってまさか!!


歯科医が道具を交換しているらしい。カチャカチャと音がする。


「ちょっと痛いよ〜お兄さん」ギャルが笑う。

尖った物が歯と歯茎の間に挿し込まれる。


え??!ちょっと待って!!!

まさか抜歯やるの?!


やめろぉぉぉ!!!!


次の瞬間、電流のような痛みが全身を駆け巡った。


ウギャーーーー!!!!


俺は痛みのあまり気を失った。



――しばらくして――



「お兄さん!お兄さん!」

ギャルから叩き起こされた。

「いつまで寝てんのさ。終わりよ、終・わ・り!!」

そう言いながら、歯科用トレーを俺の目の前に差し出す。

「ほら、これがほんとの『虫歯』だよ。」


トレーには整然と並べられていた。

左から順にミミズ、蛾、多数の蛆虫、ムカデの赤ちゃん、そしてゴキブリが。


……え?!厳密には「虫」でないものもあるよね?

朦朧とした頭でツッコミを入れながら、俺は2度、気を失った。




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虫歯 もこまり @mokomari

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