第24話 死を忘れることなかれ
僕達はみんな同じ魔法学院に通っている。
そこには学生向けの寮もあるんだけど、僕は13歳になるまで、つまり2年生になるまで家から通っていた。
姉さんは12歳、つまり一年生だから魔法学院に入ってからずっと寮生活をしている。
僕も寮生活がしたかった。
窮屈な生活から抜け出したかったが言い出すのは難しかった。
もし、僕がわがままを言ったら姉さんに何かあるんじゃないか、とそんなことを考えていた。
姉さんとは学年も違うし、家でも会うことは無くなった。久々にすれ違った時の姉さんは何かに怯えるように生活していた。
今思えば学院内でなかなか合わなかったのも姉さんなりに人と関わりたくない理由があるのかもしれない。
そして僕が13歳の誕生日を迎えた日。
僕は血反吐を吐いた。
僕は直感した。
「ああ、死ぬんだ」って。
誰かに言われたわけじゃない。
ただ僕はそう思ったんだ。
そしてその予感は当たっていた。
僕は家族に言わず、いつものように授業を終えて、学院から帰る際に病院によったんだ。
先生は僕のことを診た後、静かに言った。
「もう長くはありません」って。
どのくらいの長さ?とか、
奥にある舌が黒く染まってるのはなぜ?とか、
不治の病って治りますか?とか、
馬鹿げたことでもなんでも聞けば良かった。
でも僕はただ「わかりました」とだけ言って家に帰った。
僕はベットに潜りながら考えてた。
「姉さん、悲しむかな」とか「最後の晩餐は何にしような」、とか。「どこで死ぬんだろう」とか。
「僕ってなんで生まれてきたんだろう」
涙が頬を伝って落ちていくのが分かった。
人を不幸せにした人生だったな、と思う。
何かしたいことがあるかと言えばある。
でもどれもくだらないことで。
でも一つだけ、はっきり分かることがある。
「姉さんには幸せになって欲しい」
その願いに迷いはなかった。
僕はベットから飛び降りると父上に懇願しに行ったんだ。「一生のお願いです。僕も……寮生活をさせてください。必ず、必ず優秀な成績を収めます」と誓って。
でもさ、その優秀な成績って僕が死んだら意味ないよね。
まぁ良いか。嘘ついても。
それくらいなら許してくれるよね。
僕、死んじゃうだし。
そんな気持ちで父上に交渉していた。
そして許可が降りると姉さんに会えることが嬉しくてベットの上ではしゃいじゃったんだ。
そしたらさ、メメント・モリみたいに血反吐が自分の体に反して飛び出ていくんだ。
あー。ベットが汚れちゃった。
あー。どうやって隠そう、とか。
でも死ぬのに、そんなこと考えてて良いのかな。
こうして13歳の頃から寮生活が始まった。
自分の部屋は姉さんの部屋からは遠いけど、それでも毎日遊びに行った。でも時々部屋にいないんだ。遅い時間帯でも。
姉さんはアイドル?なんていうのにハマってた。
僕はそれが嬉しくて、こっそり隠れながら応援してた。
姉さんは踊りが上手くて、歌が上手で、あんなに輝いてて……。
僕、ずっと見ていたい。
でもそれはわがままだよね。
ただ人生は悪いことだけじゃなかった。
勉強についていけず、危うく家に戻されそうになっていた13歳の終わりに、とある人物と出会ったんだ。
もし、次の成績が悪ければ家に逆戻りなんて絶対に嫌だった。でも僕の頭じゃ無理なこともあった。それが悔しくて、悔しくて人気のない図書館で泣いていると優しく頭を撫でる人物がいた。
「魔導書、濡れるぞ」
僕のことを気遣ってないことは分かった。
「もういいもん。濡れたって、破れたって」
「良くない。それは俺が次に借りようとしていたものだ」
彼は僕の隣に座ると「どこが難しいんだ?」と馬鹿にしたような顔で言ってきたんだ。ムカついたよ。でも、それは温かった。
「電流の強さとか、一切分からない!どのくらい強くしたらこの魔法ができるとか、もっと詳しく優しく書いてよ!」
「馬鹿だな。ここに書いてあるだろ?」
彼は僕の肩のそばにあった教科書を引っ張り出すとパラパラとめくり出す。そして一瞬で該当のページを引っ張ってきたんだ。
「え、え、覚えてるの?」
「当たり前だ。教科書はページと本文は全て覚えないとな」
「キモすぎる」
「馬鹿は黙ってろ」
僕は彼のことを今一度、じっくり見た。
どこか、姉さんを思い出すところがある。
でも顔も似てないし、性格も似てない。
だけどなんでだろう、姉さんなんだよね。
「俺が教えてやるから、分かったらその魔導書俺によこせ。一部忘れたところがある」
「一部?」
「P47の上の部分だな」
「キモすぎる」
僕はふと、気がついた。
彼には腕が一つしかなかった。
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