第9話 選択肢と命はいつも一つだけ


 彼、ベルフワインに連れられて進んでいく。

進むにつれてメルキッドの囀りが響き、その響きは数を増していく一方だった。


少ない明かりであり、誰かが予め設置してくれているランプは心元なく、いつ化け物が襲ってくるのか皆目見当がつかない。


前を見てみてもランプのある左側とその先が少し照らされているだけで右側や奥から何か来ようが分からない。もし弓矢のような、高速で動けるものが奥からやってきたらふいをつかれてしまいそうだ。


「そろそろ来そうだな」


彼は腰に付けていた杖を取り出し、もう片方には小型の魔導書を握っていた。


「メルキッドか?」

「ああ。おそらく3匹。俺は右側に行く。あんたは左側を頼む」


わざわざ明かりに近い方を譲ってくれるとはな。

そして彼の予言通りそれはやってきた。


「シャアアアアッ!」


牙を剥き出しにし、唾液が飛び散りながら彼の方を襲ってくる。


「馬鹿が。襲う時は声出したら分かるだろうが!」


彼は杖を咄嗟に構え、詠唱する。


「突き刺すような光を。私を導きたまえ!」


彼の杖から放たれてた光魔法は槍なのか弓矢なのか分からない中途半端な大きさでそれらの頭を正確に突き刺し、爆発する。

それらの体はバラバラになっている。が頭の方はピクピクとまだ動いていた。


「お前は詠唱するんだな」

「詠唱した方がミスりにくいだろ?」

「それは人によるだろうな。俺はわざわざ計算するときに筆記しないからな」

「へー。あんたの頭はデカそうだな」

「それよりも俺が気になったのは詠唱のときに一人称が変わらなかったか?」


口語では「俺」だったのが詠唱するときは「私」になっていた。


「あー。魔法を教えてもらったの、母親なんだ。っていうか母親のを見てたから癖付いてるのかもな」

「そうか。良い魔法だ。光魔法は」


この世界にある基礎元素魔法。

火・水・草・風・土・雷・(闇・光)

その中でも光と闇は別枠に置かれる。


その理由はそれらを使える人間は限られていること。血筋だ。

ましてや光魔法なんていうのは闇を祓う者たちでもある聖職者として活動している一族が多い。



俺は死体から人差し指ほどのツノを取りながら彼に自分の身分について聞いてみる。


「俺は別に聖職者でもなんでもない。たまたま光魔法が使える一般人の子供として産まれただけだ」

「それだけでも恵まれていると思うがな」

「そうか?光魔法使ってるやつ、変わってるやつしかいないだろ」

「それは……言えてるかもな。マイノリティのはずなのにな。変なやつは多い」


これは歴史的に見ても、だ。


彼と他愛もない話をしながら進んでいると地響きが聞こえてくる。


「お目当てが起きたか?」

「かもな。さっき来る途中に広いスペースあっただろ?そこにおびき寄せよう」


きた道を引き返し、小さな通路を通り抜けると教室はどの大きさの空間が現れる。天井には穴が空いているのか光がほんの少しだけ、天からの糸のように漏れていた。


「崩れそうだな。天井」

「良いんじゃないか?日光浴びれるぞ」

「冗談はよせ。浴びる前に死んでるがな」


彼は壁に手をつけると、拳で殴り始める。

拳が当たるたびに小さな石がぽろぽろと壁から崩れ始めると下の方からヒビが生まれ始める。


「はやくきてくれ。俺はさっさと帰りたいんだ」


叩きつける力には彼の狙いでもあるゴレスウッドを呼び出す以外の意図がありそうだった。


「壁、壊すなよ」

「ばーか。そんな脆くねぇ……ッ?!」


彼の足元がガラスのようにヒビが模様を描き、崩れ始めたかと思うとそこから岩が現れた。


「来たか。ゴレスウッド」


その岩は手のようだった。

岩から岩へと連結して出てくる様はまさにパレード。全身が現れる頃には中々の大きさであることに気がついた。


「良かったな。これ、立派な大人だぞ」

「だろうな。見てみろよ、奴の方の部分。昔の残骸があるぞ」


見ると岩の中に剣やら兜、そして骨のようなものが混ざり固まっていた。


「とんでもないもの呼び起こしたか?」


彼の少し不安の入った質問に俺は答える。


「さぁな。とりあえずやろうぜ」

「……だな」


彼は再び杖を取り出し、もう片方の手に魔導書を抱える。


「あんたは戦わないのか?」

「言っただろ。まずはお前の実力を見せてくれ」

「腰抜かして逃げんなよ」

「まさか。俺は楽しみだ」


彼は先ほどの詠唱とは違い、小声で何かを呟き、杖から魔法陣が浮かび上がる。


「一瞬で終わらせてやるよバケモン。星の道標スターアーチ


魔法陣からは五角形が生まれ、その角から光が交差しながらも真っ直ぐに進んでいく。

その先には奴がいた。


目標につく手前になるとそれらの光は関節を狙うように分かれ始め、首、左肩、右肩、左足、右足と綺麗に分かれてぶつかる。

砂埃が舞い散り、奴がどうなったのか分からない。


俺は近づくとその先には影があった。


「手抜いたのか?まだ生きてるぞこれ」

「抜いてなんかねぇよ。相性が悪いのか?完璧に狙ったはずなんだがな」


彼は再び何かを詠唱し始め、杖は奇妙な三角形を描くように空中を描いている。


「クソ喰らえバケモン!」


彼の放とうとしている魔法は光魔法の基礎として習う魔法だった。しかし彼のは一味違う。

彼の手元にある魔導書直伝なのか、それとも母親から受け継いだものなのかは分からないが、先端が三つに分かれていた。


「悪いな!俺はめんどくさいことが嫌いなんだ。ここで終わらせてもらうぞ!」

「お好きにどうぞ」

「後でチケット代返せとか言うなよ」

「お前のパフォーマンスはまだ終わっちゃいないだろ」


彼は少し口角を上げると


「ここで魔力使い切ってやる。最大だクソ野郎!食いやがれ!光槍ライトニング!」


大きな光の束は凄まじい勢いで彼の杖から放たられる。そして彼はその反動で後ろに倒れ込み、光はバケモノの体を貫いた、ように見えた。


結果、バケモノの右肩を切り離しただけだった。

崩れた右肩、右腕は少し手前に転がっている。


「クソ!……詠唱をミスったのか。位置は合っていたはずだ。しかもあいつは動きが遅い。何で外したんだクソ!」

「そんなに悲観するな。凄い威力だな」

「だが奴の胴体、心臓を砕かない限りあいつは動き続ける。俺はミスったんだ」

じゃない。アシストだ」













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