5人目は戦えない
Chocola
第1話
僕たちは、かつて「番号」で呼ばれていた。
その数は、一億人を超えていたという。
名前も、家族も、生きた証も、全部――剥ぎ取られて、ただの「素材」として扱われた。
そして今、生き残った“成功例”はたったの五人。
その中でも、僕は「5番」と呼ばれていた。
能力は「空間把握」。
扉の向こうの人間の位置や、建物の内部構造、見えない敵の動き――目を閉じても全てが視える。
その力で、仲間を守ることができる。
でも、僕は――戦えない。
理由はひとつ。
姉の幼なじみが、そばにいないと暴走するから。
僕は制御不能になる。
空間把握が強くなりすぎて、全方位から情報が洪水のように流れ込む。
耐えきれず、脳が悲鳴を上げ、周囲を壊してしまう。
人も、建物も、そして自分自身さえも。
「また留守番?」
小さく呟いた僕に、姉は申し訳なさそうに微笑んだ。
「……ごめんね。でも、もうすぐ。あの子が戻ってくるから。そうしたら、きっと一緒に行けるよ」
その言葉を、僕は何度も聞いた。
姉の幼なじみ――僕を唯一“正常に”保てる存在。
彼女が近くにいれば、空間情報はやわらぎ、混乱しなくなる。
記憶はない。でも、夢の中で見たんだ。
光に包まれるような笑顔で、僕の名前を呼んでくれた。
「――ゆうと」
その一言だけで、涙が溢れた。
仲間たちは戦っている。
1番と2番は前線で戦闘、3番は戦略を練り、4番は心理操作で敵を攪乱する。
全員が、僕よりも強くて、必要とされている。
なのに僕は、ここで待機。
「ゆうとがいれば、無駄な犠牲は減る」
そう言ってくれる仲間もいる。
でも、制御できない僕が暴走すれば、味方さえ傷つけてしまう。
一度だけ、それをやってしまった。止めてくれたのは、姉だった。
あの時、姉の腕には深い傷が残った。
「……ねえ、お姉ちゃん」
「ん?」
「次、帰ってくるとき、あの子も一緒に……来てくれるかな」
「うん。約束する。必ず迎えに行くから」
姉の声は、優しかった。
だけど、どこか不安も混じっていた。
それでも、僕は頷くしかなかった。
モニターの中で、仲間たちが命を懸けて戦っている。
僕はそれを、ただ見つめるだけ。
いまは、まだ。
でも――もしも、彼女が僕の名前を呼んでくれたなら。
そのときこそ、僕は戦う。
空間ごと敵を潰す。
僕の手で、全ての組織を消し去る。
それが、彼女の涙を止める方法だと信じているから。
5人目は戦えない Chocola @chocolat-r
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます