【復讐から始まる成り上がり】裏切られた俺が元カノと間男をダンジョン配信で地獄に叩き落とすまで
@flameflame
第一話:幼馴染の裏切り
東京郊外の、ごくありふれた高校。その2年B組の教室で、黒須鴉は今日も一日を終えようとしていた。窓の外は茜色の夕焼けが広がり、部活動に励む生徒たちの喧騒が遠くから聞こえてくる。鴉にとって、放課後の教室ほど心地よい場所はなかった。なぜなら、そこにはいつも、彼の幼馴染であり、唯一無二の理解者である白石鈴蘭がいたからだ。
鈴蘭は、クラスの人気者だった。明るい笑顔に、誰にでも優しい言葉をかける才能。鴉のような地味な存在の隣にいることが、まるで彼女の輝きを増しているかのように思えるほどだった。鴉は、そんな鈴蘭の隣にいられるだけで幸せだった。二人で下校し、ファミレスで新作のダンジョンRPGについて語り合う。それが、鴉の日常であり、未来だった。
しかし、その平穏は唐突に、そしてあっけなく打ち砕かれた。
事の発端は、一人の転校生だった。
「今日からこのクラスに来た、灰谷狼牙だ。よろしく」
自己紹介と共に教室に現れた彼は、まさに絵に描いたような「人気者」のオーラを放っていた。身長は高く、スラリとした体躯。ワックスで固められた髪はトレンドを押さえ、その瞳には自信と野心がギラついていた。そして何よりも、彼の肩書きが強烈なインパクトを与えた。
「俺は、ダンジョン配信者『キング・ウルフ』として活動してる。応援よろしくな」
教室は一瞬静まり返り、すぐにどよめきに変わった。「キング・ウルフ」――その名は、若者たちの間では知らない者がいないほどの有名人だった。ダンジョンが現実に出現し、その探索の様子を配信することが一大ブームとなっていたこの時代、彼の名はまさに英雄だった。
狼牙は、まるで舞台役者のように颯爽と教室の扉を開け、そして去っていった。その日以来、鴉の日常は少しずつ、しかし確実に侵食されていった。
鈴蘭が、変わっていくのが分かった。
最初は些細な変化だった。授業中、時折狼牙の方をちらちらと見る。放課後、彼らの間で交わされる楽しそうな会話。そして、やがて鈴蘭は、鴉との下校中に「ごめん、今日は用事があるの」と、少しだけ申し訳なさそうな顔をして、狼牙のいる方向へと駆けていくようになった。
鴉は、何も言えなかった。ただ、胸の奥で、鉛のような重い塊が大きくなっていくのを感じるだけだった。
「鈴蘭、最近、灰谷とよく話してるな」
ある日、鴉は勇気を振り絞って尋ねた。鈴蘭は一瞬、戸惑ったような顔を見せたが、すぐにいつもの明るい笑顔に戻った。
「うん!狼牙くんね、ダンジョンの話とか、すっごく面白いの!鴉とは違うタイプだけど、でも、ね?」
「でも、ね?」その言葉が、鴉の心臓を鷲掴みにした。自分とは違うタイプ。その言葉が、まるで鴉の存在を否定されているかのようだった。
そして、あの日。それは放課後、いつも通り鈴蘭を待っていた鴉が見てしまった光景だった。
校舎裏の、普段誰も立ち入らないような場所に、鈴蘭と狼牙がいた。鈴蘭は、狼牙の大きな背中にすがりつくように抱きつき、その顔は、鴉がこれまで見たこともないほどに、満ち足りた表情をしていた。狼牙は、鈴蘭の髪を優しく撫で、その耳元で何かを囁いている。二人の間に流れる空気は、明らかに親密で、そして鴉を拒絶するものだった。
鴉の全身から血の気が引いていく。足元がぐらつき、呼吸が止まる。心臓が鉛の塊となって、体の奥底へと沈んでいくような感覚。
「……鈴蘭」
絞り出すような声は、二人の耳には届かない。いや、届かなかったのではなく、届かないほど、彼らの世界は完璧に閉じられていたのだ。
その夜、鈴蘭からのメッセージは、たった一言だった。
『鴉、ごめんね。私たち、もう会うのやめよう』
簡潔すぎるメッセージに、鴉の頭は真っ白になった。まるで、これまで二人が築き上げてきた時間が、すべて幻だったかのように。
翌日から、鈴蘭は狼牙と堂々と一緒にいるようになった。周囲の好奇の視線も気にする様子はない。二人の間には、まばゆいばかりの「特別」なオーラが漂っていた。
鴉は、ただ見ていることしかできなかった。心臓が張り裂けそうなほどの痛み。裏切られたという絶望。そして、何よりも、自分がこんなにも無力だったという事実に、打ちのめされていた。
教室の片隅で、鴉はただ窓の外を眺めていた。茜色の空は、昨日と同じように広がり、部活動の喧騒も聞こえてくる。しかし、彼の世界は、もう永遠に、元には戻らないことを知っていた。
「俺は……」
鴉は、固く拳を握りしめた。砕け散った心の中に、新たな感情が芽生え始めていた。それは、黒く、深く、そして燃え盛るような……。
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