世間知らずのダンジョン掃除屋、裏方志望を諦めない

奉寺一茶@ほうじ茶の間

ダンジョンの掃除屋

 ダンジョンが世界中に発生して半世紀が過ぎた。

 各地に発生したダンジョンは当時の情勢、常識、法則……いろいろ覆し、際限なく湧く資源、未知のエネルギー体系、摩訶不思議な効果を持つ品々、それらはこの世界を塗り替え、時間をかけて当たり前になっていった。

 そんな世界で問題が起こった。


 それは………


「鷹岡さん、最近の掃除の頻度増えすぎじゃありません?」


「しょうがねぇよ、少子化…つっても都心に偏って地方は過疎してんだからよぉ…今飲めてるだけでもマシだろ…!」


「それはそうですけど…」


 そう"掃除"だ。


 地方都市の大衆酒屋で愚痴を吐いていた。

各々の仕事場の荒れ具合に嘆いて現実逃避に酒を飲む。ここに誘ってくれたのは向かいの席に腰を掛けジョッキを仰いでいる小太りな先輩おっさん鷹岡さんだ。


「つっても貴重な新人がを続けられるかも一握りってのが世知辛えよ…」


「ですねぇ…そう言えばこの前、久々に新人来たって言ってましたけどどうです?」


「ああ…山田か、あいつ調子こいて沼対策無しで沼竜スワンプドラゴンに喧嘩ふっかけて呑まれちまったよ」


「……マジすか?」


「マジだよ…そういや棚古はどうしてる?」


「棚古君ですか?秘境で脳筋レベリングしてますよ」

 そう言い、一人の同業の顔を思い浮かべる。 棚古、今年から入ってきた年下の同業者。四六時中ダンジョンに潜って暴れる元気が有り余っている後輩だ。

……ずっとダンジョンに潜ってるけどあいつ高校生だったよな?出席大丈夫なのだろうか…まぁ大丈夫か。

後輩…と言えばそうだ

「貴戸君、最近配信始めたらしいんすけど鷹岡さん知ってます?」


「あの貴戸が配信?スカして滑ってんのが関の山だろ」


「……否定できないすね、彼に関しては」


貴戸君、1つ年下の後輩だ。一言で説明するな

ら…微妙なナルシストだ。


「ちょっと見てみますか……このチャンネルかな…イケメン王子のダンジョン攻略チャンネル……今度会ったらチャンネル名変えさせないと」


「…だな」


チャンネル名はちょっとあれだったけど内容の方は…


「「悪い所が滲みでとる…」」

微妙だった。



「うーん、貴戸の奴はちょっとあれだったが、ダンジョン配信って結構賑わってんだな」


「そうっすね、最近だと【摩天楼】とか【ボムプティング】とかすかね」


「へぇ〜、ってこんな女の子もダンジョン配信してんのかよ、都会すげえな」


「そっすねぇ…俺らは出会いなんか微塵も無いのに…」


「おいこら山神、おめぇと一緒にすんな…お前は俺より全然ましだろうが…お前言われたことあるか?女の子に『こんなのオークじゃんww』って…」


「……すんません、一杯奢りますよ」


「すまん」

悲しい事は酒で流すに尽きる。


「そういや明日は西の方だっけ?そろそろあがっとくか?」


「あーそっすねここいらにしときますか……明日はデカGかぁ…」


「ご愁傷さまだ、ほれ立て立て」

 鷹岡さんに促され店を出る。

……それにしても、明日はデカG掃除かぁ…休みてぇ


***


 中部地方下層内包ダンジョン中層にて。

「無限湧きかよこいつら…」

それは今日の掃除対象、四方八方そのうえ天井からも落ちてくる。

グチャッ

「げっ、汁付いた…」

 際限なく湧くそのモンスターの名前はジャイアントコックローチ…通称クソデカゴキブリ、略称デカGである。

「面倒だし、苛ついてきたし一気にやるか…【天狗の才】」


「はじめっからこうすりゃよかった…」

 辺りの地面にはデカGの死骸がびっしり落ちていた。

 【天狗の才】、ユニークスキルに分類される俺の所持スキルの1つ、大雑把に言えば伝承とかにある天狗が出来そうな事は大体できる。風の操作に神通力、脚力強化の超跳躍に姿隠し、結構便利なのだが…


「頼りすぎると腕が鈍るんだよなぁ…」

「…うしっ、こいつらの素材渋いし記録取ってダンジョンの魔力値測って今日は終わり!…って、ん?」

 魔力感知に変なのが引っかかった。


「魔力溜まりか?」

変な反応のする方へ行くとそこには…


「うわっ、ゲートか」

 ゲート、ダンジョン内には4つのゲートがある。1つは入り口のダンジョンゲート、2つ目は階層同士を隔てる階層門、3つ目は踏んだら勝手にどっかに飛ばされるトラップゲート、そして4つ目は、たまにダンジョン内に発生し他のダンジョンのどこかと繋がっている扉と呼ばれるゲートだ。これ旅行とか長距離移動短縮とか普段はかなり便利なんだけど。


「未確認の扉…これ行き先確認しないと後で管理局が騒ぐよなぁ……」

 唐突な残業の確定演出って最悪だよね。


***


 扉の先は迷宮タイプのダンジョンだった。


「マップ的には関東圏のどっかなんだろうけど、電波弱いな…下層か?」


 ダンジョン内のエネルギーは全て魔力で成立してるため、深く潜るほど電波などの通りが悪くなる事がある。機材用の魔力変換器とか噛ませば普通に使えるけど高いんだよなあれ。


「…………か……」


「ん?」

風音と聞き間違うほど小さい声、その先にはなんかガタイの良いヤバそうなモンスターが探索者を襲っていた。


「ん?よく見りゃあれ牛頭の悪魔タウロスデーモンじゃん」


 それは名前の通り牛の頭を持つ悪魔系モンスター。悪魔にしては筋骨隆々なボディで筋肉戦法取ってくる変な奴。そのくせ悪魔系だから物理攻撃は効きにくい下層のクソモンスである。

(【軽足】でちょっと近づけば射程範囲か)


【ヴゥ゙モ゙オ゙ォ゙】


「ちょ!?」


(【破魔の矢】)


「え!?」


牛頭の悪魔タウロスデーモンのコアがある胸部に光の柱が突き刺さりでかでかと風穴を空け、悪魔の身体が黒い塵になって消えていく。

「そこの人ー!ここどこのダンジョンの下層ですかー!!」


「え!?っえっと奥多摩ダンジョンの……ってちょっと待って何処から…」


「こっちの奥に新潟方面のダンジョン中層への扉あるんで良かったらどうぞー!!それじゃ!!」


「えっ!?ちょっと待って!!」

"今の誰!?"

"待ってあのクソ牛が一撃!?"

"扉からの救援!?"

"ていうかこの光どっかで見たな"

"あれじゃね?【八武】の所の破魔の矢"

"は?あれユニークだろ?偽物だろ"

"でも破魔の矢なら悪魔系一撃なのも納得"

"てか結局誰なんだ?"


***


「帰ってきましたゴキブリダンジョン…って、気軽に使っちゃったけど破魔の矢バレてないよな?あれ表向きにはユニークだし……まあいっか」



 後日、ネットでは【破魔の矢】のユニークからレアへのカテゴリ変更がネットニュースに流れ、1年と8カ月ぶりのカテゴリ変更がトレンドに登った。

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