第21話「ラストリア」


 近辺の都市への道が見つかると、その冒険者たちとは別れ、僕らは元の町に戻るところだった。


「ところでキタンさんはついて来てよかったんですか?」

「んー? 森から出たいとは思ってたが、行きたい場所があったわけでもねぇからな。坊主たちについてくぜ」


「探したいもんも見つかったしな」と、キタンが続けて、ぼそっと呟いた。

 探したいもんとは? と聞こうとしたときアイラの口が開いた。


「ねぇみんな、この近くに小さな集落があるんだ。ルインズ王国に行くより近いし、そこに寄ろう?」


 アイラから寄り道の提案が出た。

 ルインズ王国まで、もう一度野営する程度の距離だったが、集落で泊まれるなら好都合ということで、寄ることにした。


 近いといった通り、30分程度でその集落には着いた。


「ここって……ラストリアか!」

「……ん? 有名なところなんですか?」


「うん」「有名というか……」と、マホさんとキタンが顔を見合わせた。


「ふふ、私の故郷だよ!」


 なんとアイラの故郷らしい。

 キタン達は何度か足を運んだことがあるらしい。


「あっ、アイラねーちゃんだ! みんなアイラねーちゃんが帰ってきたよ!!」

「やーやー少年。久しぶりだね!」


 アイラが顔なじみと触れ合っている。

 いつしか集落の人がたくさん集まっていた。


「二年ぶりじゃない? もっと顔みせにきなさいよ、アイラ」

「わかってるよおばちゃん!」


「人気者だなぁ」と、言葉が漏れた。

 A級は世界に名が知れた英雄だ。それがこの規模の集落となると、みんなの英雄になるもんだろう。


「勇者いる!! 勇者だ!」


 突如、一人の子供が僕を見て、声をあげた。


 すると「勇者だ!」「本物!?」と子供たちに囲まれた。


「こらー、君たち。その人は勇者じゃないよ! 私の大切な人だから困らせないで!」


「勇者じゃないの?」っと子供が言うと、

「偽物だよ」とマホさんが呟いた。

 偽物はなくないかな、マホさん?


「じゃあアイラねーちゃんの彼氏?」


 子供の一人がそう言うと、アイラの顔が真っ赤に染まった。


「ちょ、違!? そういうのじゃないから!!」

「へへ、彼氏だ! そうに決まってる!」

「違うわ! ちょっと待て、君!!?」


 そうして、アイラは子供たちとじゃれていた。




 その日の夜。

 アイラの祖母の家の空き部屋を貸してもらった。

 ただ、いつも夜の番をしていたためか、眠くない。

 することもないので、気分転換に外へ出てみることにした。


「ふぅ……」


 外に座るのにちょうどいいサイズの石があり、腰を下ろす。

 空気が気持ちいい。

 ここ最近は野宿ばかりで、外の空気に慣れてしまった。


「っえい!」

「え?」


 突如、頬が突かれる。

 アイラだ。


「えへへ、前のお返しです。……眠れないんですか?」

「うん。なんか目が覚めちゃってね」

「じゃあ、私が夜の雑談に付き合ってあげるよ」


 アイラが僕の隣に座る。

 肩越しに、ほんのりと彼女の体温を感じた。


「ソウヤくん、急に強くなったね~。私の技をどんどん使いこなすからびっくりしちゃうな」

「まだまだアイラにはかなわないよ」

「またまた~」


 実際、アイラにはまだ敵わないと思う。

 確かにたくさんの技を使えるようになったし、強くなった自覚もある。

 けど、目に見えて闘力の総力が違うと肌身で感じていた。


「アイラは、まだ勇者を探してるの?」


 唐突に聞いた。

 それは、僕がアイラと一緒に行動するきっかけでもあった。

 僕は勇者に瓜二つ。アイラは2年前、勇者を探すために僕と一緒に行動を始めた。

 結局勇者の行方はわからず、話題に上がらなくなった。


「……うん、探してるよ」

「なんで探してるの?」

「……そういえば言ってなかったっけ? 私、勇者と一緒にパーティを組んでたんだよ」

「勇者と?」


 勇者とパーティ? 3年前に勇者は4人のパーティで名を馳せたが、その一員だったのか。

 なんともすごい経歴だ。A級なのも納得がいく。


「ちなみにその時のメンバーには、マホちゃんとキタン君もいたよ」

「勇者以外、全員そろってるじゃないですか……すごいなぁ」


 昔パーティを組んでいた、と言っていたが勇者パーティとは。

 おそらく最強のパーティを僕は目の当たりにしているのだろう。

 里でキタンと出会った後、僕が寝ている間に昔話は済ませていたらしい。


「まさか元勇者パーティに偽勇者がいるの、なんの冗談かな」

「……ソウヤくんは偽物じゃないでしょ?」


 アイラは断定した。

 今まで足を引っ張ってると感じていたが、その言葉がすこし僕の心を癒した。

 

「ソウヤくんは、ちゃんと私を助けくれた。私のあこがれる勇者様だよ?」

「……っ!」

 

 思わず頬が赤くなる。

 そんなふうに真っ直ぐ言われると、なんだか恥ずかしく思ってしまった。


「……そういえばソウヤくん、私にキスしようとしてたでしょ?」

「——っえ!?」


 思わず困惑の声が漏れる。

 キス……?

 あ、そうか。川辺で人工呼吸をしようとしてたんだっけ?


「いや、あれは緊急事態だと思って——」

「あはは、怒ってないよ! ちゃんとソウヤくんが助けてくれようとしてたのをわかってるから」


 起きてたのか……? どうやら僕の行動を知っていたようだ。


「ふふ、助けてくれたお礼に、これをプレゼントしてあげる」


 そういうと、アイラは僕の手を取って、指輪をくれた。

 これは、ダンジョンでミミックから見つけた指輪だろう。


「ソウヤくん、指輪はちゃんとロマンチックな時に渡すんだよ?」

「……え、あ…………うん」

「えへへ、じゃ、おやすみ」


 そう言って、はにかむように家の中へ戻っていった。

 僕は数秒固まっているだけだった。

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