第8話「魔法使い」
「さて、進みましょうか」
「そうだね——」
その時、前方からわずかな光が見えた。
迷宮での初勝利に僕は気が緩んでいた。
——目の前に迫る脅威を見落としほどに。
「
「——ッ!!」
突如、アイラが前方に入り、ガードに入る。
前方から高速で火炎弾が飛んできた。
アイラがいなければ、確実に命中していた。
油断が生んだ隙を、敵に突かれた。
「ソウヤくん、まだいる! 来るよ!」
だが、すぐに剣を構えた。
わずかな光がまた見える。
魔法に詳しいわけではないが、火炎弾を打ち出す基本的な魔法だ。
だが、基本技とは思えない速度だ。
技の応用で……避ける!
「——見切り斬り!」
瞬時に攻撃を見切り、反転攻勢に入る。
見切り斬り。
相手の攻撃を予測した状態で、回避とカウンターを同時に行う強力な技。
カウンターを出さずとも、予備動作がわかる攻撃には避ける用途で非常に効果的であった。
「アイラ!」
すでにアイラは前方に走り出していた。
敵は……魔法使いか?
遠目での認識だが、フードをかぶっている。
見たことないけどリッチだろうか?
リッチの推奨等級はB級。
B級のなかでもひときわ強い、遠距離魔法を主に使うモンスター。
かなり距離がある。早く近づかないと。
(にしてもリッチか、なんか立ち姿が人間の女性に見えるけど気のせいか?)
「——ソウヤくんっ!! すぐにどこか遮蔽物に隠れて!!」
アイラが焦った声で指示した。
どういうことだろうか?
「——っ!?」
リッチの方向を見て、絶句した。
先ほどとは桁違いの眩い光が通路全体を照らし出していた。
何か特大の魔法が……来る?!
「——
すぐに駆け出したが、リッチの魔法が打ち出された。
通路全体を覆うように、炎の塊がこちらに広がってくる。
遮蔽物を探すが、周りにそんなものはなかった。
「ソウヤくん、早く!!」
遥か前方の脇道から、アイラの切迫した声が響く。
あそこまで行けば避けられるが——間に合わない!
(このままでは焼け死ぬ!)
必死に頭を回転させる。何か、この状況を打開する方法はないか——
『ソウヤくん、技は敵を倒すだけのものではないよ』
過去にアイラに言われた言葉を思い出す。
身に着けた技を振り返れ!
「——千刃乱舞」
無数の斬撃を周囲に放つ技。
それを通路中の壁、天井に浴びせる。
「うおおお!!」
無数の亀裂を入れた壁に、さらに鋭い刺突を放つ。
既に脆くなっていた壁が連鎖崩壊を起こし、大量の破片が崩れ落ちた。
落下した破片を遮蔽物として、炎を防いだ。
「——危なかった……!」
あと数秒、遅ければ当たっていた。
B級と言われるだけはある。
「ソウヤくん、生きてる!?」
「生きてるよ!」
炎が止むと同時に、駆け出した。
魔法は恐ろしいが、距離を詰めれば勝機が見えてくるはず。
「
「飛空剣!」
アイラとリッチの技が相殺する。
ただし、予備動作が多い分、遠距離勝負ではリッチに軍配が上がる。
「
「ちょっ激しいね君!」
そう言いながらも、アイラは火炎弾を確実に捌く。
激しい攻撃にアイラの足が止まるのが見えた。
もう少し、両者あと2メートルといった距離だ。
そこにようやく追いつく。
狙いがアイラに集中しているためか、攻撃が一切来なかった。
距離を詰めて、剣を抜いた。
「居合抜刀!」
「無駄だよ——
距離を詰めた瞬間を狙ってきた。
炎が……近距離で広がっていく!?
まずい——誘われた!?
避けられない——
「——迅雷一閃!」
「——ッ旋風圧!」
アイラが援護してくれたおかげで、攻撃から免れる。
リッチは風魔法の衝撃を放ち、距離を取る——
「そう来るよね! でも——」
アイラはそれを見越していたのか 、さらに距離を詰め、残していた片腕でリッチを床に抑えつけた。
「これだけ近づかれたら、もう打てないよね?」
「……」
リッチは、抵抗の素振りひとつ見せなかった。
攻撃してこない……。
終わった……ようだ。
「ソウヤくん。ぼーっとしてないで来て」
「……あっうん」
激しい戦闘だった。
これがB級。
アイラも見たことない技を放っていたし、強敵だったのだろう。
迅雷一閃。
稲妻のような速さで相手に一閃を放つ技だろうか。
いつか教えてもらいたい。
以前遭遇した
これがB級の圧力か?
「……で、君人間でしょ? フードぐらい取ってお話しようよ」
アイラが驚きの言葉を放つ。
「——え? リッチじゃないの?!」
「リッチ? リッチはこんな強くないよ。油断してたら絶対死んでたし」
実際に死を間近に感じていた。
B級だからと、割り切ろうとしたけど、もっと強かったのか。
「降参。ごめん、アイラとは思わなかった」
「ん? 知り合いだっけ? 同業者にこんなことするってひどくない?」
バサッとフードを取る。
若い。20歳のアイラとほとんど同年代の女性だった。
「こんなところで会うとは思わなかった。久しぶり」
「……ん? もしかして……マホ?!」
あれ、どうやら知り合いのようだ。
「こんなところで会うなんて!! ここで何してるの?!」
アイラが目を輝かせ、当然の疑問を吐く。
「え、住んでた」
「ここに住んでるの?! なんでえ?!」
ええ……。
迷宮に住んでる人なんて聞いたことない。
モンスターの巣窟だよ、ここ?
「部屋はあるし、食料も森にいけばたくさんある」
「いやいや、噓でしょ……近くの町にいけばいいじゃん」
途中でやけに生活感のある部屋があったけど、この人が住んでいたのか……。
「道、わかんないから……」
この人、方向音痴なのか……。
「じゃあ……マホ、前みたいに一緒に来る?」
なるほど、この方は昔アイラとパーティを組んでいたらしい。
なにを間違えたら、こんなところに来るのかわからないが……。
「……うん、行く」
「やった! じゃ、これからはパーティーメンバーだね。ソウヤくん、紹介してあげる、A級魔法使いのマホだよ!」
なんかすんごい展開に。
さっき命を狙ってきた魔法使いが仲間になった。
アイラと同じA級。
とても頼りになるというか怖いというか……。
「マホさん、D級のソウヤです。 よろしくお願いします。」
「……」
とりあえず自己紹介をしておく……。
が、なんか返事してくれないけど?
寡黙な方なのかな……?
いやあれか、A級が二人のパーティにD級の僕。
なんか釣り合わない感じか、くそう、悔しいな。
いや、こっからどんどん等級あげていけばいい。僕頑張るのでそんな目で見ないで……。
「——ユウヤ??」
「え……いや、ソウヤです」
名前間違えたこの人。
僕そんな舐められてる?
「……いや、別人? すごく似てるからびっくり」
ああ、そういうことか。
ユウヤとは、この世界の勇者様の名前だ。
実は僕は勇者と顔が似ているらしい。
アイラ曰く、とてもそっくりだと。
勇者は魔王を討つ存在と国が送り込んだ人で、勇者が通った町にはそこら中に銅像があるというほど伝説的な人だ。
そのはずなのだが、なぜか勇者の銅像は僕の住む町にはない。
もしかしたら僕の町には通っていないのかもしれない。
うちの町は酒がうまいのにもったいない。
「勇者様じゃないですよ。ソウヤです」
「そう。よろしく、ソウヤ」
こうしてあらたな仲間、マホさんが加わった。
A級が二人……足手まといにならないよう精進しよう。
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